恋心は鎧で武装して。[進撃の巨人] (ページ9)

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エピソード5 ページ9

始祖の巨人の奪還。
これが、まだ子供であったマルセル、ライナー、ベルトルト、アニという四人の少年少女に課せられた任務であった。

マルセルには顎の巨人、ライナーには鎧の巨人、ベルトルトには超大型巨人、アニには女型の巨人と呼ばれる巨人の力が継承され、マーレの戦士隊としてパラディ島に送られたのが今から五年前の事。

始祖の奪還が容易でない事はマーレ軍も承知の上。しかし、多くの諸外国から狙われる大国マーレにこれ以上の猶予はなく、残された二体の巨人もパラディ島に派遣し始祖の奪還を急いだ。

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「どうなってんだ！クソッ！！」

ポルコに八つ当たりされた木製の椅子は、彼の一蹴によって一部が掛けて床に転がる。

「ライナー、アイツはここまでだ。俺が奴を喰って鎧を継承する。ルー、お前はあの女を喰って兄貴の顎を継承しろ」

「そんな判断をするのはポルコ、お前じゃない」

苛立ちを表面に出したポルコと、腕を組み壁にもたれ表面的には落ち着いているルーが睨み合う。
"ライナーを喰う"事は彼の残りの寿命である六年がなくなるという事だ。ルーには到底許せる事ではなかった。
だが、ポルコの苛立つ理由にも訳がある。
アニは敵に拘束され、顎の巨人の力を持つはずのマルセルはおらず、顎の力を持つ女がライナーとベルトルトによってマーレに引き渡されたとの報告が入ったからだ。
つまりマルセルはもう、この世にいない。

「顎を継承するって事だけはのんでもいい。だからアンタはもう、戦士を目指すのはやめな」

「あ！？なんでそうなる！？」

「ポルコ…アンタは、長生きしなきゃいけない…」

そう言い残して軍本部の空室を出て扉を閉めると、ポルコの苛立ちは最高潮に達し声にならない叫びと椅子が壊れる音がした。
ルーは一度深く息を吸い込み吐き出す。

正直、彼女が顎の巨人を継承するのは難しいだろう。
ライナーの任期が終わるまで生きられるなら良い…と諦めていたルーと、まだ戦士になるつもりでいるポルコとの成績の差は大きい。
ポルコの事は、マルセルが島から帰ってくれば説得するだろうと勝手に思い込み油断していた。

「…マルセル…アンタが守りたかったものも、私には守れそうにない。ごめん…」

ライナーが生きているという事だけで嬉しいはずであった。確かに肩の力は抜けた。
しかし、"仲間"の安否がこんなにも重く心を掻き乱すとは想像もしておらず、孤独でいた方が楽であったと殻を破った事を少しだけ後悔した。