エピソード3 中編 ページ5
ルイジアナという名の少女にファミリーネームはない。
親も兄弟も祖父母も、血の繋がらない養父さえいなかった。
分かっているのはエルディア人であり、ユミルの民であり悪魔の末裔と同じ血をもつ…それだけが彼女の情報全てだった。
物心ついた時には既に、収容区内の古びた貧しい孤児院で下働きをして飢えを凌いでいた。
ただでさえ裕福でないエルディア人が、孤児を引き取るのには勿論訳がある。孤児たちを、マーレ軍が募集する"戦士候補生"にさせるためだ。
優秀な成績の孤児が、もしも院内から戦士に選ばれれば名誉マーレ人の称号が与えられ自由が保証される。
甘い蜜を吸うために子供を利用するのが、彼女がいる孤児院の現実だ。
何も知らず、考えず、教えられる事が全て正しいと疑わない他の孤児たちは、本当の親に甘えているかの様に孤児院で過ごしていたが、彼女だけは他の子供と馴染むことはなく孤立していた。それは戦士候補生の中でも同じだった。
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「ライナー、ちゃんとついて行くから手を離して。強制されるのは好きじゃない」
「…俺の名前知ってたんだな」
いつも孤立しているルーが自分の名前を知っていたことに少し驚きつつ、言われた様に手を離す。
ルーも彼の名を口にしたのは初めてだった。だからライナーが驚くのも無理はない。
手を離された彼女は、ライナーの一歩後ろをゆっくりとついてくる。
「アンタだって私の名前を知ってた。だから、私もそれくらい知ってる。同期生の名前くらい…知ってるよ、ライナー・ブラウン」
「今日はよく喋るんだな」
「別に…ー」
"自分から話すのが苦手なだけで話をしないわけじゃない"…そう続けようとしたが、よく喋ると思われたくなかったので言葉を飲み込んだ。
「本当はマルセルが初めに気づいたんだ。お前が訓練後にすぐに帰らないって」
「マルセル…。あの気性が荒い弟の兄貴か」
"帰り道は一緒なんだし、俺らと帰らないか?"
これは数日前、帰り際にマルセルがルーに言った言葉である。もちろん断ったのだが。
「あいつは俺らにとって兄貴みたいな存在なんだ!ルーも話してみると頼りになるって分かるから、少しは同期生に溶け込めば……無理にとは言わないけどな」
確かにマルセルの側には弟を筆頭にいつも誰かがいた。
いや、マルセルが弟であるポルコの側にいたというほうが正しいのかもしれない。
「母さん、ただいま!」
話している間に、いつのまにかライナーの家に着いていたらしい。
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りんどう(プロフ) - アオウサギ様、ありがとうございます。励みになります! (5月16日 1時) (レス) id: 59f64a6e8d (このIDを非表示/違反報告)
アオウサギ(プロフ) - マッジで大好き、、、応援してます!!!更新頑張ってください!!! (5月16日 0時) (レス) id: 8561e7888e (このIDを非表示/違反報告)
りんどう(プロフ) - ぷっちょ様、ありがとうございます。続きもよろしくお願いします。 (2023年3月8日 20時) (レス) id: 59f64a6e8d (このIDを非表示/違反報告)
ぷっちょ(プロフ) - 続き気になります✨ (2023年3月8日 20時) (レス) id: 88ce73b2aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りんどう | 作成日時:2023年3月5日 17時