作を肥さず土を肥せ【はじめしゃちょーの畑短編】 (ページ2)

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やふへゐ先生__② ページ2

「Aも帰るでしょ？送るわ」

閉じたノートパソコンをケースにしまい、リュックに放り込みながら立ち上がれば、気にしないでと返される。でもちょっと待っててね、と鼻歌交じりにシンクへと向かった彼女は、左手にマグカップを携えて戻ってきた。
はい、と差し出されたそれには濃いブラウンの液体がやさしく波打っている。ほんのり漂ってきた甘い匂いを嗅いで、すぐにココアだと分かった。

「それ飲んで、あったまったら帰ろ。身体を壊したら元も子もないから」
「………うん。サンキュ」

じわり、口元から伝わる暖かさ。

「美味い」

素直なそう呟いた。「よかった」、と返した彼女は少し口元が緩んでいて、うさぎでそれを覆うように隠している。飲み終えて俺がマグカップを洗う間も、Aはぬいぐるみを抱えたまま流しの様子を眺めていた。

「明日の打ち合わせは俺とはじめくんで大丈夫だから、Aは遅くてもいいよ」
「そうなの？でも私、ココア飲むといつも熟睡しちゃうから、ようへいくんも明日寝坊しちゃうかも」
「Aじゃないんだから、大丈夫だって」

どういう意味！と怒ったふりをするAはやはりにやけている。本気で不機嫌なところなんてめったに見たことが無いけれど、いつも以上に笑顔の多い彼女の様子が少しだけ気になった。

「どしたん、何かいいことでもあった？」
「……私、あんまりここ泊まらないじゃん。よーへーくんが寝てるところ、動画以外で初めて見たから、ちょっと嬉しくなっちゃって。本当はもっと早くに起こすべきだったんだけど、ついつい眺めちゃった」

ごめんね、とうさぎと一緒に頭を下げた彼女を見て、自然と口元が緩んでしまう。釣られて笑った彼女の瞳は自分のそれよりもずっと温かくて。
外は真っ暗闇で、だれの気配もしない。こんな不健康な時間帯にはそぐわない穏やかな雰囲気に、今この瞬間世界中でふたりっきりになったような、俺はそんな幸せを感じていた。