▽ ページ47
気合一閃、横に勢いよく引かれた切っ先が真下にゆっくりと下ろされてから遅れて真紅が飛ぶ。中身の水が抜けていくと風船が萎むようにして二人は後ろに倒れ込んだ。頭と胴体を切り離されているのだから、当然断末魔など残る筈もない。おまけに太刀筋なんて誰にも見える筈がない、自分が死んだことにも気付かぬまま死んだのだろう。哀れなことだ。
そんな可哀想な二人の最期の証を存分に上から被り、明るい色のパーカーを真っ赤に染めたその人は、酷く低くくぐもった、それでいて聞き覚えのある声で唸る。
「これはどうも。ウチの奴がお世話になったらしいやん」
彼の持っていた武器───シャベルが素早く横に振られる。尋常ではない量の血糊が灰色の煉瓦にべったりと貼り付いた。酸化したそれはもう真っ黒で、今までその手に掛けた人数を嫌でも想像させる。
「とんだ粗相をお掛けしてしまったようで申し訳ありませんねェ、後で厳しく言っておきますんで」
がっ、と一歩踏み込まれ、誘われるように二歩目も繰り出される。
凶器が近付いてくる度、情けない声をあげる敵兵×10。俺は今までこんな奴らに凄まれていたというのか。それは何というか、微妙な気分になる。
「あぁでもバレなきゃ犯罪やないですもんね？なら口外されなければそれでええか」
敵兵が思い出したように震えた狼狽の声を上げる。
「ち、違う、こいつは敵国幹部のッ」
「お〜〜っとそれ以上はあかんな」
流れるようにシャベルが軌道を描き、ゴルフでホールインワンでも狙うかのようなフォームで彼の最期の言葉は刈り取られた。敵国幹部、という遺言を聞いて兵の混乱は更に大きくなる。
「バーディー位は行ったんちゃうかな」
やっぱり狙っていたらしい。
しかし驚くほど丁寧な態度を守っていた彼の口調が一気に崩れる。溜息の後、ゆっくりと開かれた瞳は躾のなっていない猟犬の光が宿っていた。
「君らんとこの上司が俺が幹部とか何とか出鱈目ほざきやがった所為でお前ら無事で帰せんくなったわ」
全員死ね。
呪うなら来世で上司を殺せ。
そう言い放って彼は地を蹴った。
柔らかい部分に冷たい冷たい刃ではない何かを当てて、勢いを殺さぬまま命と神経と鼓動と、と色んな物をバーサーカーよろしく刈り取っていく。その姿は正しく羅刹であった。
恐怖に顔を歪ませる彼等は知らないだろう。
アンバーがどす黒く染まる様は、何とも愛らしいのだと。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 155人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「nmmn」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
陰キャがいるから陽キャがいるのだ！！ - ああああのっ…！良かったらsyo×syp書いてくださいませんかかかかかっ…！！？？ (2020年9月7日 19時) (
レス) id: ff8bfdcc9b (このIDを非表示/違反報告)
鮭 - ｼｬｵﾁｬﾝ多い―すこ( *´艸｀) (2020年5月24日 12時) (レス) id: 7cccfd6a08 (このIDを非表示/違反報告)
シトラス - 最初タイトル見て甘々な感じのお話なのかな、と思ったらpiのコールサインがポべートールでタイトルの意味に漸く気が付いて鳥肌が立ちました。瓶入りさんの伏線と知識量がえげつなくてもう本当に好きです、これからも応援してます。 (2020年5月10日 20時) (レス) id: 20245e566b (このIDを非表示/違反報告)
猫缶。(プロフ) - 綺月ナズナさん» ちょっと私の心臓潰れてません？潰れてたわ(事後報告)無理じゃね？？外側スパダリ特定の相手にはデレるshaさんすこすぎてもともと無い語彙が完全に消滅しましたありがとうこざいます。sypさんって絶対体力オバケだよね(何がとは言わない)ありがとうございましたしゅき。 (2020年5月10日 18時) (レス) id: efdd73f72f (このIDを非表示/違反報告)
綺月ナズナ(プロフ) - 猫缶。さん» あｯｯｯｯ存じ上げております私の妄想がお世話になっておりますｯｯｯｯ、そんな風に評価して頂けた事が無いので凄い嬉しいですありがとうございます！ syp×sha了解です、これからもどうぞ御贔屓に。 (2020年4月17日 17時) (レス) id: dc9fff9865 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瓶入りレモネード | 作成日時：2020年2月15日 9時
