独占欲という名の呪い ページ5
.
「私さ、剣持のこと好きだったんだよね」
卒業前。私も剣持も受験が終わってのほほんとした雰囲気の昼休みに、私はそう言った。
ただ、諦めがつかなくて伝えてしまっただけ。ちょっと前に剣持が隣のクラスの子に告白されて付き合ったことも知ってるし、なんなら相談だってされている。
剣持曰く『女性の気持ちが分からない』から、付き合ってからどうすればいいのか私に相談しているらしい。まあそうだよね。だって剣持、女の子の扱い下手だもん。
たとえば。少し馬鹿なことをすれば、暴言とまではいかなくても人によっては傷ついてしまうようなことを言ってしまうところ。
たとえば。女の子の誕生日の日に剣持がただ叫んでいるだけの音声を送ってくるところ。
たとえば。少し甘えたようなことを言えばすぐに煽ってくるところ。
全部、私だから許せたんだよ。
はあ、と息をついて翡翠色の瞳を見つめる。ほんとうに綺麗だよね。世の中の穢れなんて何も知りません！みたいな。
「そう、ですか」
何拍か置いて剣持はそう言う。久しぶりに私に対しての敬語なんて聞いたかも。
その驚いたような苦いような顔も、本当は全部私のものになって欲しかったんだよ。君は何も知らなかっただろうけど、私、本当に君のことが好きだったんだよ。
『だった』って過去形で言ってるけど今もやっぱり忘れられないんだよね。もう卒業なのにさ。
忘れた方が楽だってことくらい、自分でも分かってる。
「なんで、今になって言ったんだよ」
「卒業前に昔の気持ちくらい伝えてもいいかなって思っちゃった。剣持があの子と付き合ってるのはもちろん知ってるしさ、過去形だから、何も気にしないで」
「……ああ、そう」
広がる沈黙。教室の中はもう受験が終わって解放されたような奴らしかいないせいか、人数は少ないのにいつもよりもうるさく感じる。
私たちだけか違う世界に取り残されたような感覚。まだ、一緒にいたい。
「僕も、好きだった時期はありましたよ」
「……」
「でも好かれてるって思わなかったからさ、諦めたし告白されたから付き合ってしまったってところはあるけど」
「へえ、そうだったんだ」
じゃあもし私が早く言ってたら、という喉のすぐそこまで出てきた言葉は飲み込んだ。だって、言ったってしょうがないんだから。
私は、私は、ただ。
私はただ、剣持にとって私を忘れられない存在にしてやろうって思っただけなの。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 247人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひなり(プロフ) - 豆腐ちゃんさん» ありがとうございます〜！！不定期更新ですがこれからも頑張りますね💪 (2023年3月7日 1時) (
レス) id: b9c573f425 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐ちゃん - 大好きです！！！！応援してます！！！！ (2023年3月2日 22時) (レス) @page9 id: c43eafab12 (このIDを非表示/違反報告)
ひなり(プロフ) - 雪山さん» リクエストありがとうございます！花火大会……ちょうど最近行ったところだったのでタイムリーで嬉しいです👌 (2022年8月29日 13時) (レス) id: b9c573f425 (このIDを非表示/違反報告)
雪山 - ぁああぁぁあ！！好きだ！！！！何回も繰り返して見ちゃってます……！もしよければ、花火大会に行く話とか見てみたいです……！応援してます！ (2022年8月29日 2時) (レス) @page8 id: 87b04c2d83 (このIDを非表示/違反報告)
ひなり(プロフ) - ももすけさん» リクエストありがとうございます！あんまり喧嘩は書いたことがないのですが頑張りますね〜💪🏻 (2022年8月28日 18時) (レス) id: d80cdc7bcd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひなり | 作成日時：2022年8月28日 0時
