7 Butterfly ページ7
朝食を終え、食器を洗った後に、自室で机に向かって勉強しているAに話しかけた。
狂夜「A、今日は土曜日だし、何処かへ行こうか。」
カレンダーを指差すと、Aは何をそんなに考えているのか、今日の日付けを見て、難しそうな顔をしていた。
A「………じゃあ、商店街に行きたい。」
秋とは云えど、十一月の空気は少々鋭さを纏っていた。
隣で歩く彼女は余り寒さに応えていないようにも見える。
商店街には本当に十人十色、と云う言葉の似合う何処か懐かしさを湛えたような場所だ。
狂夜「Aは何処に行きたいの?」
A「あそこ。」
彼女が指さした先は『Flower shop』と、木の看板に彫られた小さな小さな花屋だった。
狂夜「お花屋さん?」
A「うん、寄ってもいいかな?」
俺の答えを聞くより先に、店内に入ってしまったのだから後を追うより他ならない。
パンジーやマリーゴールド、ガーベラといった様々な花達と、其の花達の香りが、爽やかに店内に充満している。
店内を彷徨くAは、軈てある棚の前で立ち止まった。
狂夜「何か欲しいものでもあったの?」
彼女の居る位置まで歩み寄れば、それはそれは優美な香りが鼻孔を涼めた。
その正体は、気品に満ち溢れた、深紅の薔薇だった。
「それは『黒蝶』という品種なんですよ。薔薇の中でもトップクラスの花保ちの良さと深みのある黒赤色が売りなんです。」
定員が現れていた事さえも気が付かなかった為に、唐突に落下された声に酷く吃驚した。
A「黒蝶……。」
狂夜「A、欲しいの?買ってあげようか?」
余りに惚れたように呟くものだから、余程気に入ったのだろう。
けれどどうしてか、胃の底から黒い感情が蠢く。
気に入らない。気に入らない。気に入らない。気に入らない。
憎い。憎い。憎い。憎い。
この薔薇が。
A「ううん、大丈夫。」
然し彼女は首を降り、「行こう、お兄ちゃん」と早々に店を出てしまった。
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作者名:日名無 りん | 作成日時:2019年10月20日 13時