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資料館を後にした私は、トイレ休憩の時間に、こっそりと集団を抜け出し、一人原爆ドームへ向かった。
息づかいのような不快な熱風が、私の髪を靡かせ頬を撫でた。
改めて廃墟と化した建物を見上げる。
瓦礫だらけの破壊された建物。
____74年前、この場所でどんな悲劇が起きたのだろうか。
どれほどの犠牲が出たのだろうか。
誰があのような未来を想像しただろうか。
あんな残酷な世界を、人間は作った。
ふと、原爆ドームの傍らに落ちている瓦礫に、人影が描かれているのを見つけた。
それはとてもはっきりと姿形を示していた。
私は、吸い寄せられるようにその瓦礫を凝視した。
私の身体の半分はあるであろう大きな瓦礫。
そこには、まるで壁に描かれた絵のように、人間の影が映し出されている。
私達と同じように、泣いたり、笑ったり、怒ったり、喜んだりしていた人間が。
ポロリ。
視界が急に歪んだ。
目が熱くなるのを感じて、私は一歩前に進んだ。
ゴオオオオ
と音をたてて、飛行機が原爆ドームの真上を飛んだ。
ふと隣に気配を感じた。
目線を向けると、さっきあった青年が、瓦礫に描かれた人影を見て泣いていた。
キーンとジェット音が響く。
その時、青年が私を見つめた。
…………刹那、視界が眩しくなった。
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作者名:日名無 りん | 作成日時:2019年7月4日 23時