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「……ん」
ティントを塗って唇を動かせば小さくパッ、という音がなった。
大人っぽガーリー、とでも言えばいいのだろうか。
ピンクを基調としたメイクをして、可愛らしめの服を着て、某人気ブランドのカバンを持てばそれだけで自分に自信が持てるのは本当に不思議に思う。
久しぶりの一人でのお買い物。
AtRのライブには自分が応募したものは4分の3ほど当選し、瀬奈もそれなりに当選していたから少しだけTwitterで交換や譲渡をしたら呆気なく全通できることが決まった。
今日はそのライブのための洋服を買いに行く。
最初は瀬奈とふたりで買いに行こうかという話もあったけれど、大企業の正社員として働く私の休みと接客業をやっている瀬奈の休みが合うことはなく。
仕方なくひとりで大量の服を買いに行くことにした。
別に通販でもいいかな、とも思ったけどせっかく推しに会うのだからやっぱり自分に合う服をちゃんとこの目で見て買いたい、なんて。
「いってきまーす、」
もう一度だけ自分の服装を確認したあと、誰もいない玄関に向かってそう声をかけてドアを開ける。
今はだいぶん落ち着いた服を着てる私も昔はいわゆる量産型と呼ばれる格好をしてた時もあった。
今では量産型の女の子も随分増えたように感じられるけど、私があの格好をしていたときは現場だったとしても結構アウェイだった気もする。
容姿に関しては周りの何倍も努力していたつもりだったから、他人に容姿を褒められることが1番多かったのはあの頃かもしれないなあ、と今となっては思うけれど。
けれど、知り合いに褒められることだけを目的に容姿を磨いていたかと言われればそれは事実ではないと胸を張って言える。
その理由は単純だった。
あの頃の1番の幸福は、快楽は、現場のあとにDMでまふくんに容姿を褒められることだったから。
『今日も洋服とか髪型とか色々してきてくれてありがとう、次も楽しみにしてる!』
この一言だけのために努力していた。そう言っても過言ではない。
それが本音ではなくてただの建前でもいい。ファンを離さないための落とし文句でもいい。
それでいいから、そこにある架空の愛に縋っていたかったの。
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