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「……ふはは、やっぱ瀬奈にはバレちゃったかあ」
「バレちゃった、って……なに笑ってるの」
「別にそんな大したことじゃないよ、まふくんの今の活動が少しだけもやもやするだけ。もちろん大好きではあるんだけどね」
「『歌い手』っていう昔のまふくんはどこ行っちゃったんだろうなあ、とかいう意味の分からないわがままだよ」
私は酸っぱいような笑みを浮かべる。
瀬奈はどうともとれないような微妙な表情を崩さない。瀬奈とは特に仲が良いという自負もあるし、これくらいのことで友達をやめる、なんてことはおそらくないと思う。
瀬奈も数年前までは認知をもらっていた側のリスナーだから最近の推しに対して思うことがあったっておかしくもない。
この発言が、これくらいと言えるのかはわからないけど。
「……変えられないのにね」
「え？」
「私たちが推しに対してどう思おうと推しの決断は変わらない、変えられないのにね」
「……うん」
瀬奈は哀愁を持った笑みを浮かべてつぶやくようにそう言う。
そんなことずっと昔から分かっていた。
繋がりを持っていた頃でも、活動に対して何か思うことがあってもいざ本人を目の前にしてしまえば結局何も言えなくなってしまう。
でも、思うだけはタダだから。そう信じ続けてどれくらい経っただろうか。
繋がりを持っていない今ではその思いが実を結ぶことなんてあるはずがなかった。
「思って、思って、思って、どれだけ私たちがあの人たちのことを考えても何も届きやしないなんて、生産性なんてあるはずがないよね」
「そう思っても推しが好きなことが変わらないのは瀬奈もでしょ？」
「あはは、そうなんだよなあ」
ふたりでぎこちなく笑って、何もなかったかのように無理をする。
私たちはその辺にいるにわかでもなければ、上っ面しか見ていないような新規でもないの。
私たちは古参で、認知をもらっていたようなリスナーであるということしか、推しを推すことにおいての誇りは無いから。
「ほんと、なんでこんなに好きなんだろうね」
私のつぶやきは、ふたりの思いとなってカフェのBGMにかき消された。
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