【最俺】好きを数えて【短編集】

フジ《遠い存在》 ページ48

いつも思うけど、フジって本当によくモテる。
動画のコメント欄とかでも、見てて呆れてしまうほど毎度のようにかっこいいと言われ続けている。




恐らく、優しくて紳士的で、それでいて面白いことが人気である所以なのではないかと思っている。
この間、またわくバンのライブに行ってきた。
その時はひっそりと来てひっそりと一人で帰ったのだが。



物凄い数のファンに詰め寄られても、フジは動じることなく優しく対応していた。
たくさんの女の人に囲まれているのを見て、私は何故か悔しくなり、ライブが終わってすぐに会場を飛び出した。



なんで悔しい？
悔しいと思う理由なんてあったか？
と自問自答する。



それでも理由なんてわかりそうにない。
でも、もしかしたら。
彼が遠い存在になってしまったことに対して、悔しく思ってしまったのかもしれない。



悔しさを拭えぬまま家に着いた。
手を洗ってうがいをし、部屋の隅に置いてあるダンボールを開けた。
小さなダンボールの中には、私の思い出が詰まっている。



高校の時、キヨ、フジ、ヒラ、こーすけ、私の5人で遊びに行った時に撮った写真。
底の方には、幼い頃の写真もある。
幼馴染であるフジと、ふたりで笑って写ってる写真が何枚も出てきた。



しばらく眺めながらダンボールを漁っていると、写真の下に紙切れが挟まっていることに気づいた。
なんだっけ、これ。おつかいのメモとか間違えて突っ込んだのかな。
そう思って紙を開く。



四つ折りになっていた紙には、四コマ漫画が書いてあった。



「あ、これ、フジに貰ったやつ……」



幼い頃から漫画を書いたりしていた彼から、ずっと前にプレゼントしてもらったものだった。
懐かしい。内容は意味わかんないけど、懐かしい。



いつからこんなに遠い存在になったのかな。
連絡すればすぐ会えるし、電話も出来る。
今だってたまに一緒に買い物行ったり飲み行ったりもするのに。近いようで遠い、そんな存在。



ふと、私の頬を一筋の涙が伝った。
それを合図に、どっと涙が溢れ出してくる。拭っても拭っても意味が無いくらい。



そんな私の耳に、軽快な通知音が飛び込んで来た。慌ててスマホを見ると、フジからメッセージが来ていた。



【フジ：A、今暇？良かったら久しぶりにショッピング行こうよ】



突然の彼からの連絡に、私は嬉しくなって思わず微笑んだ。
近いようで遠くても、私には大事な存在だ。



フジ《遠い存在》

最俺《笑い合える仲間》→←キヨ《大事な人》

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す