黒side ページ48
「横ちょは帰らんの?」
「もうちょい練習してから帰るわ」
「そっか。じゃあまたね」
「おん、お疲れ様」
安はギターを仕舞うとニコニコして俺を見つめてきた。
「な、なんやねん」
「ヒナちゃんにちゃんと伝えてあげてな」
「なっ!?やから、その話は持ち帰りやって!!」
「でも、半分以上答え出てるようなもんやろ?」
珍しく意地悪なのは安なりの優しさで応援みたいなもの。
それをわかってるから腹も立たへんけど、ムキになってしまうのが俺で。
「俺には俺のスピードがあんの!」
「横ちょのスピード待ってたら還暦迎えてまうわ」
「う、うるさいな!/////」
「でも、横ちょ」
笑顔から急にガチトーンになった安は少し寂しそうに話す。
「ヒナちゃん、このままじゃホンマにダメになっちゃうから。早く楽にしてあげてな」
…………それが出来やんから悩んでるのに。
でもそれを口にしたら終わりな気がして「おん」とだけ返事をした。
安はそんな俺に安心したように笑って帰って行った。
ヒナを楽にしてあげたいのが一番の俺の願いやねんけどな。
その役目、俺には務まらんのよ。
独り言にして長くて、誰かに言うには説明不足な言葉は胸の奥に仕舞っておいた。
こんな時はギターの練習に打ち込めば落ち着けるはず。
邪念を捨てて練習するのが一番やからこそ、この想いは一旦忘れられるはず。
そう思って練習していたら、扉が開いた音がした。
てっきり安が忘れ物を取りに来たんやと思ってたら、そこに居たのは頭の中を埋め尽くしてる本人で。
「…………ヒナ」
思わず名前を呼べば、ヒナの瞳から雫がこぼれた。
その姿はまるで昔のように見えて、俺は咄嗟の反応でヒナのところまで駆け付けた。
そこまで距離があったわけじゃないのに、ギターなんか直ぐに手放した。
「どうした?大丈夫か?」
俺とすばるの後ろをずっと着いてきてた泣き虫なヒナちゃんがそこには居て、俺は思わずその頬に手を添えた。
指で涙を拭い、世界で2番目に可愛い瞳を見つめる。
「ヒナ?しんどいんか?仕事で嫌なことあったん?」
ヒナは無言で泣き続けて、俺と目を合わせようとはしない。
けど、手を払おうともせぇへん。
そんなヒナにもう一度質問しようとした時、小さな声が聞こえた。
「………………ゃ」
「えっ?」
ヒナは俺の手を優しく払って自分で涙を擦って拭う。
目が赤くなるからやめろと言う前にヒナが口を開いた。
「よ、こが…………すき、や………………」
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作者名:ひなまる | 作成日時:2022年6月27日 17時