黄side ページ33
「仕事終わりやった？顔が疲れてるよ」
「あ、おん……アルバムのジャケ写の撮影してたわ」
「そうやったんか！仕事終わりにわざわざありがとうね」
「…………別にええよ、約束やったやん」
「んふふ、せやね。今度は俺の家って話やったもんね」
正直、怖い。
なんで丸はこんなに普通なのか。
この前のことは何も触れないのか。
それとも、ホンマは俺の勘違いやったんやろうか。
いや、そんな訳ない。
やって俺は経験してるから、ちゃんとわかるし。
なら、丸は何考えてるん？
「今日は亮ちゃんが好きな物用意したよ！」
「おっ！からあげと卵焼きやん！めっちゃ美味しそう！！」
「頑張って手作りしてん！ちょっと時間なくて雑やねんけど……」
「…………いや、めっちゃ美味いやん！」
当たり前の俺らを過ごす。
頭の片隅ではこの前の事がずっとあるけど。
丸はご飯を食べてる俺を見てニコニコしてる。
今日は酒はない。
だから、記憶をなくすこともない。
今日は何かを探るしかない。
けど、怖くてできひんのが今の自分。
「美味しかったぁ……」
「んふふ、喜んでもらえて良かった！！」
「丸、また料理のスキルあがった？あの時もめっちゃ美味し……かった…………けど………………」
「亮ちゃん？」
ふとあのデートを思い出して声が詰まった。
あの時を思い出すとやっぱり涙が出そうになる。
俺は今もあの頃と変わらんぐらい丸が好きやのに。
やのに、あの頃のような空気を作ることは出来ひん。
自分で壊したのに、ずっとずっと後悔してる。
「…………ほんま、丸の料理好きやわ」
丸が、好きやねん。
そう伝えることは多分もう出来ひんけど。
けど、丸のこと諦めることも出来なさそうや。
意味不明に泣いてる俺を抱きしめてくれる優しさを丸は俺にずっと与えてくれるから。
「………………なにしてんの」
「亮ちゃん、何も聞かへんなぁって思って」
「…………………正直言うけど、俺記憶ないから何も聞けへんねん。全部、俺の良いようにしか捉えられへん」
「俺は覚えてるで？」
「……………ここで丸がホンマのこと言っても嘘言っても、俺にはそれが事実になるからな。言いたいことあるんやったら言ってや」
丸は少し距離を離して俺を見つめる。
その顔はどこか悲しそうに見えた。
そのまま俺の顔に近づいてキスをしてきた。
「この前と同じことしてあげようか？」
「…………すきにしろよ」
俺の返事に丸は意味深に笑ってまたキスしてきた。
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作者名：ひなまる | 作成日時：2022年6月27日 17時
