紫side ページ24
「あざしたぁ」
収録を終えて、俺はスタジオの方に練習しに行こうと考えていた。
そのままマネージャーに頼もうと思っていたら、目の前によく知ってる顔が立っていた。
「ヨコ?何で居るん?」
「仕事終わりやわ」
「あ、そうやったん。お疲れ」
ヨコは俺の言葉を無視して腕を掴んでくる。
急なことに俺は「なに?」とちょっと引き気味に聞く。
ヨコは何も言わず、ただ俺の目を見つめてる。
サングラス越しの瞳は上手く読み取れへんくて、ちょっとだけ怖かった。
「帰るぞ」
「?いや、分かってるけど「ちゃうわ、アホ。家に真っ直ぐ帰るって言ってるねん」
「はぁ?いやいや、今からスタジオに「やから、今日は帰るんやって」
「なんでそんな事あんたに決められなアカンねん」
「ええから」
ヨコはそのまま俺の腕を引いて歩き出す。
思わずマネージャーを探したが、いつもいる場所に居ないって事はヨコが話を付けてるってことなんやろう。
いや、マジで有り得へんから……。
でも、ヨコにはこういう時は何を言っても変わらんから黙って着いていくことに決めてる。
ヨコのやりたい事はヨコのやりたいようにしてあげたい。
求められれば俺は100%返すって決めてる。
もちろん、それ以上を目指してやけど。
ヨコは駐車場に停めてある車の前で立ち止まって、やっと俺の腕から手を離した。
そのまま無言で運転席に座りに行ったってことは、多分助手席に座れよって事やんな。
俺は無言で助手席に座った。
当たり前のように発車するから、俺は深く息を吐いた。
「そんなことするタイプ違うやん。どーしてん、急に」
「…………。」
「めっちゃ無視やん」
何十年と一緒に居るけど、ヨコの考えてる事はわからない。
ヨコは俺の思考のその先を行くから、着いていくので必死。
“夫婦”なんてファンやメンバーからも呼ばれるけど、実際はそんな幸せなもんじゃない。
俺が必死なだけや、ヨコに対して。
「………さっき、マネージャーから聞いたぞ」
俺の話は無視して、ヨコは自分の話をし始める。
相変わらずやなぁ、なんて思いつつ耳を傾ける。
「なにをよ」
「昨日、体調崩して倒れたって」
勝手に話したん誰や。
ってか、なんでヨコに話すねんな。
「ちょっと寝不足やっただけやで?」
「………。」
もう無視や。
ホンマ、何がしたいんや此奴は。
俺は出そうになったため息を何とか飲み込んだ。
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作者名:ひなまる | 作成日時:2022年6月27日 17時