泡沫。 (ページ5)

今日:7 hit、昨日:7 hit、合計:24,235 hit

005 ページ5

あの日以降、なぜかはよくわからないが、少しずつだけど永瀬くんと話す機会が増えた。

と言っても、たいした会話はしていない。挨拶とか、今日の授業どこからだっけ？とか、また先生に呼び出されたの？とか。

けれど、そんな会話でも永瀬くんと話せるのが少し嬉しかった。理由は自分でもはっきりとはわかってないけど、きっと話せる人ができたのが嬉しいんだろうな。

ちなみに、永瀬くんに対する悪いイメージも少しずつ消えていっているのも事実だ。

「おはよー。」

「おはよ。今日遅くね？」

「あー、寝坊しちゃって慌てて支度した。笑」

「だからすっぴんなんや。」

「え、嘘、わかる？」

「なんかいつも以上に顔薄いなって思っとった。」

「え、ちょっと！」

「はは、冗談やって。お前おもろ。笑」

笑いながら永瀬くんはそう言った。永瀬くんが笑うところなんて、初めて見たかもしもしれない。こんなふうに笑うんだと少し驚いた。

そして、なぜだかわからないが嬉しくなった。この感情の正体はよくわからない。

「てか名前なんて言うんやっけ。」

「瀬野、だけど………。」

「いや知っとる。じゃなくて、下の名前。」

名前忘れられてたんだ、と少し落ち込んだが、下の名前を聞かれた。これって、そういうことだよね、？

「A、です。」

「………いい名前やな。」

それだけ言うと、永瀬くんはスマホをいじり出した。

え、どういうこと、？名前で呼ぼうとかそういう話じゃなかったの、？

少し戸惑ったが、よくよく考えれば永瀬くんはそういう人だったなと納得した。私、少しずつ永瀬くんのことわかりだしてるじゃん。戸惑いと嬉しさが入り混じった不思議な感情だった。