託されたもの ページ8
「……恐らくこちらの世界にAはいない」
「何だと!?どういうことなんだ!」
「俺がいたところはこの世界の隅だ…。こちらの世界ではその故人を想う人がいるほど、明るい場所にいるんだ。Aがいるとしたらここよりも明るく豊かな所だ。それに、この先は誰もいない………もしかしたら、Aはもう一つの門の先に…」
「Aが地獄と呼ばれる空間にいるだと…」
そんなはずはない…Aは確かに鬼にされたが人を殺してはいない。
Aは罪を犯したのか?だが、黄泉の国の主は進めば会うべき者に会うと言っていた。だがこの世界でAに会うことは出来なかった。
「……左の門に行くつもりか?」
「俺はAを取り戻しに来たんだ。だから俺は行くぞ!」
「そうか…ならこれを持っていってくれ。」
金成は杏寿郎に紡いだ糸玉を渡した。
「左の門の先は中の亡者が外に出ないよう迷宮のようになっていると聞いた。戻るとき迷わないように門の外からこの糸を…」
「ありがとう!金成!俺は必ずAを見つける。そして、地上に戻ったら君の墓に手を合わさせてもらうからな!」
杏寿郎は糸玉を手に門の外へと向かった。
「お待ちください…」
杏寿郎は呼び止められた。若草色の着物を着た高貴さを感じさせる女だ。
「誰だ?」
知らない女性だな…
「私は翠と言います。あなたはこれからもう一つの門の奥へと向かうのでしょうか…お願いがあります。どうかこれを持っていってはもらえませんか…」
女は杏寿郎に布で包まれた物を渡した。中には翡翠の玉飾りが入っていた。
「これは装飾品か何かか?」
「どうかこれを…あの人に…このままではあの人は消えてしまう。あの人を助けて下さい。」
「その男の名前は……どんな姿をしている!」
「あの人は鬼になりたくさんの命を奪いました。本来の姿も名前も忘れてしまいました。けれど、そこにいるのは確かなのです。どうか……」
「鬼になっただと?その者の名前は何と言う…」
ミタマ
「弥碧……けれどあの人は鬼になって名前を失ってしまった…」
女性は杏寿郎に懇願した。杏寿郎は玉飾りを受けとると門を出た。
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作者名:緋酉 | 作成日時:2021年1月30日 21時