悔し涙 ページ49
「………」
「気がついたのね…どこか痛いところはないかしら」
「胡蝶様……あの、私」
「知ってるわ。宇随さん達と夏祭りの会場で鬼に襲われたのでしょう。危ないところで煉…杏侍さんが助けてくれました。」
本当は緋酉さんがAに憑いて鬼と戦ったのだけど…煉獄さんが来たのは間違いないわ…それよりも……
「Aを襲った鬼の事は何か覚えていますか？覚えている範囲内で良いので教えてください。」
「鬼……男の鬼でした……身の危険を感じて追い詰められて、宇随様達と一緒にいたときに手に入れた木刀で抵抗したんですけど全然駄目で………怖かったです…夏なのにどんどん寒くなって…」
Aは震えていた。その震えは恐怖だけではなかった。
「何も出来なかったことが悔しくて…」
「そう…話してくれてありがとう。無事でよかった。A……私は何も見ていないから…」
胡蝶はAの顔を羽織で覆い、背中を優しく撫でた。
「胡蝶様ぁ…ひっく……」
Aは顔を隠して泣き、胡蝶は落ち着くまでAの側にいた。やがてAは落ち着き、胡蝶は二日間の安静を言い渡すと宿を後にした。
童磨と遭遇してから四日が経った頃、Aは宿の庭で木刀を握っていた。
あの時の鬼はとても危険な鬼だった…杏侍さんが助けに来てなかったら私は生きていなかった。
杏侍さんがいなかったら…
守られるだけでいいの？
「強くなりたい…」
Aはひたすら庭で素振りをしていた。
「Aちゃん？どうしたの、その木刀…」
「甘露寺様…」
「もう、様はいらないわよ。甘露寺さんとかがいいわ。」
「…甘露寺さん。」
「それでいいわ。しのぶちゃんから聞いたんだけど鬼に襲われたんでしょ？大丈夫だった？怪我はない？」
「はい…あの時、意識を失ってしまって、杏侍さんが来てくれて無事だったそうで…」
Aは俯いた。
「Aちゃん…怖かったでしょ。無事でよかった」
「甘露寺さん！！」
「ひゃっ、どうしたの？」
「わ、私に剣術を指導していただけませんでしょうか………その、お忙しいのに無理をいってごめんなさい…でも、私強くなりたいです…守られてばかりは」
「A……教えてあげたいのだけどね…」
甘露寺は日輪刀を抜いた。鞘よりも長く薄い刀が姿を表した。
「私の刀って普通の刀とは違うのよ…だから、うまく教えられそうか…ごめんなさいね」
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作者名：緋酉 | 作成日時：2021年1月30日 21時
