【名探偵コナン】 勿忘草の花言葉 【安室透】

Episode 4 -Boy Side- ページ5

『あ、お帰り』
いやいやいやいや。
お帰り、じゃないだろう。何を普通に出迎えてくれているんだ。

「おっ、おま、」
頭では冷静なのに、驚きすぎると上手く言葉が出てこない。
此奴は車に轢かれた――はずだよな？だって俺はさっき、此奴の葬式に――

「？？」
混乱しすぎて何も浮かんでこない。どういうことだ？一体、どういう――
『どういうことか、意味が解らない、って顔だね』
Aは悪戯っぽくいしし、と笑ってみせる。今にも”ドッキリ大成功！”と書かれた看板が飛び出してきそうだ。この場合、一体何がドッキリなんだ？と訳の分からないことを考え始める。Aが車に轢かれて死んだ、ということがドッキリなのか、死んだはずのAが今ここにいるということがドッキリなのか。前者の場合、警察組織を巻き込んだ素晴らしく規模の大きいドッキリということになる。流石にそれは無いだろう。俺一人を驚かすためにあんなことをするほど日本警察は暇じゃないはずだ。後者の場合、今俺の目の前にいる女はAではないということになる。つまりAは本当に死んでいて…凄く不謹慎だ。

『ねえ、ねえ大丈夫？』
ハッと現実世界に引き戻される。俺の目の前でぱたぱたと手を振り、首を傾げる此奴は、間違いなくAのはずなのだが……
「……俺は、疲れているのか？」
自問自答。いや、A(なのかどうかは分からないが、仮にそういうことにしておこう)に問い掛けているのかもしれない。こんな問題、一人で考えたって答えが出るはずがない。

『うぅん、そうかもね。今日は一日大変だったでしょ？姫宮ちゃんを落ち着かせるの、軽く2時間はかかったじゃない。あんなに泣き虫じゃ、公安警察なんて務まらないよね。彼女はこれから、もっと沢山の人間の死を経験していくだろうに。毎回あんなに泣いていたら、疲れちゃうよね』
Aは目を伏せ、少し悲しそうに笑った。此奴も、大切な人の死を経験している者だ。置いていかれる方の苦しみは、良く分かるのだろう。……今となっては、置いていく方の苦しみも感じているのかもしれない。
「…俺が疲れているから、だから、こんな幻覚を見ると……？」
『幻覚じゃないよ』
「ハァ？だってお前、今日――」
車に轢かれて、死んだじゃないか。それを口に出すことは出来なかった。

『うん、死んだ。今日、私は死んだよ』
『私にも今の私が何者なのか分からない。でもきっと、”幽霊”とかいうやつなんじゃない？』

Episode 5→←Episode 3 -Girl Side-

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す