Episode 36 ページ38
『……好きだよ』
鈴の鳴るようなAの声が、耳に響いた。
ヒュッ、と、乾いた音がした。それが自分の喉から出たものだと気が付くのに、きっちり五秒はかかったと思う。
「……A、」
『あは、これだったんだ、未練……』
ほろり、とAの蒼い瞳から、海の雫の様な涙が零れた。
『ずっと、好きだった』
「やめろ、言うな、」
『やめないよ。だって、これが最後になるから』
『好きだよ、零』
『好きだよ……』
瞬きしたら、消えてしまいそうで。
吸い込まれそうなその瞳を見つめる。
不意に、視界がゆらゆらと揺らめいた。それは自らの涙によるものだった。
『泣かないでよ、零……』
「煩い、お前だって泣いているだろう」
『ごめんね、零の好きな人は先生なのにね』
そう言い、へらりと笑う。
一体いつの話をしているんだ、と少し呆れる。
「……俺も」
『え?』
「俺も、好きだった。ずっと好きだった。でも、でも……意味が、ないだろう。お前はもう、死んだっていうのに……今更、そんなこと……なんの意味もないじゃないか!」
涙は止まらず、感情とともに次々と溢れ出す。
『零、』
「分かってる、素直になれなかった俺が悪い。でも……生きているうちに、ちゃんと伝えたかった……」
『……ありがとう』
Aは涙を拭い、笑った。眉は下がり、まだ瞳は濡れていたが、それでも笑顔で言葉を紡ぐ。
『ありがとう。その涙は、私のためのものでしょう?』
「……当たり前だ」
『私がいなくなることで、こんなにも悲しんでくれる人がいるっていうのは、とても幸せなことだね……』
馬鹿野郎、とか、俺を置いていく気か、とか、何か罵ってやろうと思った。が、口の中がカラカラで言葉が出てこない。
『貴方の部下で良かった。ちゃんと見守っててあげるから……これからも、頑張って。……なんて、私が言えることじゃないか……』
「お前に言われなくたって……頑張るよ」
必死に絞り出したのは、そんな素直じゃない言葉。
『あはは、良かった、安心した』
『零、今まで、ありがとう』
潮風が二人の間を吹き抜けた。それは俺の髪を揺らし、一瞬だけ視界が塞がれる。
クリーム色の髪を無造作にかきあげ、「俺の方こそ、」と言いかけ――
そこにはもう、Aの姿は何処にもなかった。
へたりとその場に腰を下ろす。涙がコンクリートの床に染みを作った。
「馬鹿野郎……」
Aが死んでから、ずっと持ち歩いていたあのバレッタを、ジーパンのポケットから徐に取り出した。
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零ーレイー少しの間低浮上(プロフ) - あいうえおさん» 閲覧&コメント有難うございます!うわ〜ほんとですか;つД`)ありがたいお言葉感謝します!!少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです♪ (2018年1月25日 20時) (レス) id: 4f7e7a51d9 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - 号泣しました。本当にいいお話で感動しました。 (2018年1月25日 17時) (レス) id: 3fd6742cd5 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイーついった始めました(プロフ) - cherryさん» ありがとう~~~!!勿論そっちも頑張るよ!!これからも応援よろしくお願いします!!!(*^▽^*) (2017年7月24日 15時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
cherry(プロフ) - 完結おめでとう!大好きな作品が終わっちゃうのは寂しいけど完結まで読めてとっても良かったです。もう1つの作品も頑張ってね! (2017年7月24日 15時) (レス) id: 84049ed362 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイーついった始めました(プロフ) - cherryさん» ふわあああああありがとうありがとう(泣)そんな風に言ってもらえてうれしいよ~~!!!伝わればいいな、って思って書いたものがちゃんと伝わってるって嬉しいね(泣) (2017年7月19日 18時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:零ーレイー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/
作成日時:2016年11月29日 23時