Episode 34 ページ36
結局、組織総出で相手をし、こちら側には一切の損害も出なかった。
しかし、クスリの取引きごときでジンやらウォッカやらベルモットやら、組織の幹部が総動員で相手をしたのは恐らくあれが最初で最後だ。
「あれは俺にも非があった。お前のミスをフォローしきれなかった俺にも」
危うく俺たち二人とも首が飛びそうになったのだ。本当に危ない任務だった。
『ねえ、零』
『行こうよ、今から』
「はあ?」
突然のお誘いに、何の事だか理解が追い付かない。
『だから、あの場所に。私たちの、初めての任務の場所に』
「今から?」
壁に掛かっている時計を確認すると、短い針は10の文字を少し過ぎていた。
「構わないが……それも未練か?」
『分からないけど、行きたいの!』
「分かった、出かける用意をするから少し待っててくれ」
部屋着代わりのスウェットを脱ぎ、近くにあったジーパンとパーカーに着替える。
車の鍵を手に取り、Aとともに家を出た。そう言えば携帯も財布も置いてきてしまったが、必要ないだろう。
『……私は、天国に行けると思う?』
ラジオから流れるクラシック音楽にかき消されそうなほどの小さな声でAが訊ねる。
「……どうだろうな。そもそも天国なんて本当にあるのか?」
言ってしまってから、少しデリカシーが無かっただろうかと後悔する。
『でも、きっと天国は良いことをした人が行ける場所なんかじゃないよ』
『誰かを置いて逝く人は、誰かを悲しませるってことでしょ?』
「……そうだな」
そう答えるしかなかった。
それから重い沈黙が数分間続き、俺たちは漸く目的地へと到着した。
〈運転、お疲れ様でした〉
カーナビが無機質な声で告げる。車を止め、歩き出した。
ふわりと潮の香りが漂ってくる。そう言えば海の近くだったなと思いだした。
廃ビルは数年前に見た時よりも一層老朽化が激しくなっているように見える。ただそれ以外は何の変りもない。どうしてここに来たいと言ったのだろう――
『見て、零』
Aの声に振り返る。
Aは俺から少し離れた場所で、堤防に上り海を眺めていた。
『ここからの景色を、一緒に見たかったの』
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零ーレイー少しの間低浮上(プロフ) - あいうえおさん» 閲覧&コメント有難うございます!うわ〜ほんとですか;つД`)ありがたいお言葉感謝します!!少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです♪ (2018年1月25日 20時) (レス) id: 4f7e7a51d9 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - 号泣しました。本当にいいお話で感動しました。 (2018年1月25日 17時) (レス) id: 3fd6742cd5 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイーついった始めました(プロフ) - cherryさん» ありがとう~~~!!勿論そっちも頑張るよ!!これからも応援よろしくお願いします!!!(*^▽^*) (2017年7月24日 15時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
cherry(プロフ) - 完結おめでとう!大好きな作品が終わっちゃうのは寂しいけど完結まで読めてとっても良かったです。もう1つの作品も頑張ってね! (2017年7月24日 15時) (レス) id: 84049ed362 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイーついった始めました(プロフ) - cherryさん» ふわあああああありがとうありがとう(泣)そんな風に言ってもらえてうれしいよ~~!!!伝わればいいな、って思って書いたものがちゃんと伝わってるって嬉しいね(泣) (2017年7月19日 18時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:零ーレイー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/
作成日時:2016年11月29日 23時