Episode 30 ページ32
「う……っ、ぷ」
口を押さえて、ライドから降りる。
『どうしたの、零?やっぱ酔っちゃった?』
運よく空いた俺の隣の席に座っていたAが、俺の隣に走りよる。
「煩い……大丈夫だ」
『嘘吐き!吐きそうなんでしょう?』
けらけらと笑いながらおちょくってくる。
こうやって見ると、本当に幽霊ということを忘れてしまいそうだ。
「次は何処に行きたいんだ?」
首を傾げて訊ねる。
『そうねえ……』
マップを見て、悩みだすA。
こんな楽しげな雰囲気に水を差すわけにはいかないので言わないが。
傍から見たら三十路のおじさんが一人で遊園地で遊んでいる訳だ。
少し、いや、かなり恥ずかしいのだが。
にこにこしているAを見ると、そんなこと言えなくなる。
しかし、さっきのジェットコースターでもそうだったが、”おひとり様ですね”の破壊力はなかなか心に来るものがあるな、と感じる。
『お化け屋敷、行こうよ!』
「お化け屋敷ぃ?」
はあ?と思わず呆れてしまう。
お前、もうすぐ三十になろうかという女が、お化け屋敷か?と。
『え、お化けも怖いの?』
「そんな訳あるか。余りに子供っぽ過ぎて呆れただけだ」
これは強がりではない。本心だ。
『じゃあ、行こ!』
「おひとり様ですね。では、恐怖の世界へ行ってらっしゃい!」
お化けのコスプレをした従業員が、素晴らしい笑顔で送り出してくれる。
おどろおどろしい入り口の上には、”恐怖の館”と血の色で書かれた看板。
中からは心なしか冷たい風が吹いてきているようで、ぞくりと鳥肌がたった。
「行くぞ」
Aに声を掛けてから歩き出す。
迷路のようなお化け屋敷を歩いて出口までたどり着くという、極めてシンプルなものだ。
入った瞬間、恐怖を煽るような音楽が流れてくる。こんな子供騙しよりも、俺は怖い体験を何度もしてきた訳だが。
突然、ばんっと音がして壁から沢山の手が飛び出してきた。
複数の手の内の一本を掴み、声を掛ける。
「おい、お前、爪はちゃんと切っておいた方がいいぞ。怪我をさせるかもしれない。……お化けも人力とは、遊園地も楽じゃないな。頑張れよ」
お化けの方が驚いてしまったようで、すごすごと手を引っ込める。
『ていうか、本物のお化けがお化け屋敷とはねえ……』
お前が言いだしたんだろう、と突っ込みを入れておいた。
Aも全く怖がっていないようで、何のためのお化け屋敷なのかとがっくりしてしまう。
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零ーレイー少しの間低浮上(プロフ) - あいうえおさん» 閲覧&コメント有難うございます!うわ〜ほんとですか;つД`)ありがたいお言葉感謝します!!少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです♪ (2018年1月25日 20時) (レス) id: 4f7e7a51d9 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - 号泣しました。本当にいいお話で感動しました。 (2018年1月25日 17時) (レス) id: 3fd6742cd5 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイーついった始めました(プロフ) - cherryさん» ありがとう~~~!!勿論そっちも頑張るよ!!これからも応援よろしくお願いします!!!(*^▽^*) (2017年7月24日 15時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
cherry(プロフ) - 完結おめでとう!大好きな作品が終わっちゃうのは寂しいけど完結まで読めてとっても良かったです。もう1つの作品も頑張ってね! (2017年7月24日 15時) (レス) id: 84049ed362 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイーついった始めました(プロフ) - cherryさん» ふわあああああありがとうありがとう(泣)そんな風に言ってもらえてうれしいよ~~!!!伝わればいいな、って思って書いたものがちゃんと伝わってるって嬉しいね(泣) (2017年7月19日 18時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:零ーレイー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/
作成日時:2016年11月29日 23時