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Episode 0 -Boy Side- ページ1

「ねえ」
「もし、私が死んで、貴方の大切な人――例えば、松田とか、伊達とか、……スコッチとか」
「彼らが還ってくるとしたら、貴方は私を殺す?」
「私に、死んで欲しいと思う?」

それは、そんなことを訊かれた直後のことだった。
「……何を言っているんだ。…そんな訳、」
今思えば、何かの予兆だったのかもしれない。

「そう、だよね。うん、ごめん」
彼女の、いやに悲しそうな笑顔が目に焼き付いている。

四月十六日 午後二時三十八分。
俺はきっと、一生その日を忘れることはないだろう。


ギギ―――――ッッッ!!

「零ッ!」
耳を劈くブレーキ音、人々の悲鳴、Aの叫び声。
だんっと力強く背中を押され、俺は横へと倒れこんだ。
「痛…ッ、何を、」
噎せ返る血の匂いに俺の言葉は途中で止まる。

目に映るものが理解できなかった。
じわじわと広がる赤いものが俺の足元まで来る。
「け、警察を!」
「いや、その前に救急車だ!」
「大丈夫ですか!?」
耳に入るざわめきの全てが嘘の様だった。

これは夢?これは現実?

「う、うそ、嘘だろう……」
だって、そんなの。
あの黒い車の下敷きになっているのは――

Aがこの車から俺を守ったのだと気付くのに時間はかからなかった。

車はAを放ったまま急発進し、その場から逃げだした。
「轢き逃げだ!」
真紅に染まった明るい栗色の髪。可笑しな方向に曲がった手足。
見開かれたままの美しい水色の瞳と目が合った。
その目が俺に何を伝えたかったのかは今となっては分からない。
ただ、Aが俺を庇いあの車に轢かれたことだけは何とか理解できた。

遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。
俺は体中の力が抜け、何も出来なかった。ただ、ぐちゃぐちゃになった彼奴の死体を眺めているだけ。

これは現実?これは夢?

悪夢なら早く醒めてほしいと、これほどまでに願ったことはない。
けれど、倒れた時に擦り剥いた掌のひりひりとした微かな痛みが、これが現実だということを告げている。
俺の大切な部下が、俺を庇って死んだ。


四月十六日 午後二時三十八分。

桜の舞い散る、或る春の日のことを。

俺はきっと、一生忘れない。

Episode 1→



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零ーレイー少しの間低浮上(プロフ) - あいうえおさん» 閲覧&コメント有難うございます!うわ〜ほんとですか;つД`)ありがたいお言葉感謝します!!少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです♪ (2018年1月25日 20時) (レス) id: 4f7e7a51d9 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - 号泣しました。本当にいいお話で感動しました。 (2018年1月25日 17時) (レス) id: 3fd6742cd5 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイーついった始めました(プロフ) - cherryさん» ありがとう~~~!!勿論そっちも頑張るよ!!これからも応援よろしくお願いします!!!(*^▽^*) (2017年7月24日 15時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
cherry(プロフ) - 完結おめでとう!大好きな作品が終わっちゃうのは寂しいけど完結まで読めてとっても良かったです。もう1つの作品も頑張ってね! (2017年7月24日 15時) (レス) id: 84049ed362 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイーついった始めました(プロフ) - cherryさん» ふわあああああありがとうありがとう(泣)そんな風に言ってもらえてうれしいよ~~!!!伝わればいいな、って思って書いたものがちゃんと伝わってるって嬉しいね(泣) (2017年7月19日 18時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:零ーレイー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/  
作成日時:2016年11月29日 23時

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