【名探偵コナン】 Lena 【安室透】

#36 -Lena side- ページ37

「何あれ…何あれ！人が折角心配してるっていうのに！」
早歩きで逃げるようにその場を去る。

苛立ちが募り、ガンッと柱を拳で叩いた。
けれど、勿論柱が砕けたりすることはなく、ただじんじんとした痛みが拳から伝わっただけだった。

(どうして欲しかったの？一体私は、どうしてもらいたかったの？)
あんな一分一秒を争う現場で口論を始めたって何も得することはない。少し冷静になれば簡単に分かることだ。
バーボンの言っていることは正しい。私があの場にいても、何も出来なかった。足を引っ張るだけだ。
なのに何で、分からなかったのか。大人しく戻ればよかったのに。
『嫌いなんでしょ？』
そんなこと言うつもりはなかったのに。

「否定してもらいたかったの？」
嫌いなんかじゃない。邪魔なんかじゃない。
そんなことを言ってもらいたかったの？
自分の存在を、認めてもらいたかったの？
自身で見つけた答えに、思わず乾いた笑い声が漏れる。

「子供じゃないんだから……ほんと、」
(馬鹿みたい)

馬鹿みたい。本当、馬鹿みたいだ。
(何で私ばっかり、こんな思いしなきゃいけないのよ…！)
ギリッと音が鳴るくらい奥歯を噛み締めたときだった。

フッ、と視界が暗くなった。
「！？」
驚いて辺りを見回す。しかし次々とイルミネーションは光を消し、辺りは闇に包まれる。
「、まさか」

唯一光が灯っている水族館を目印に、人通りの多い場所へと出る。

「おい、どうしたんだ！？」
「おかあさーん！」
「危ないので動かないでください！」
「おい、水族館は灯りがついてるぞ！」

様々な声が飛び交う。やはり誰も、この事態を理解できていないようだった。
(きっと黒の組織(アイツら)だ。まさか…まさか本当にあのヘリで？)

ぐるりと夜空を見上げ、目を凝らす。けれど、暗闇に紛れる黒いヘリは見つけることができなかった。
(どうしよう…キュラソーが、三人が、危ない…！)

水族館へ向かう人混みの波に抗いながら、観覧車へと戻ろうとした。
「痛ッ！」
けれど、走ってきた男の人にぶつかり、その場に尻もちをついてしまう。
「邪魔だ！退け！」
私を押しのけて皆は水族館へと向かう。

「どうして…どうしてこんなに役立たずなのよ…！」
グッと拳を握りしめた。つうっと血液がつたい、コンクリートの地面に落ちていった。さっき柱を殴った時に切れたんだろう。

「どうしてこんなに役立たずなのよ……」

立ち上がって呟いた言葉は、人々のざわめきにかき消された。

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