【名探偵コナン】 Lena 【安室透】

#35 -Bourbon side- ページ36

『最初から私なんて嫌いだったんでしょ？』
その言葉と、悲しそうに笑うあの表情が忘れられない。

(ああ違う、間違えた)
「レナッ―――」
彼女を表す酒の名前を叫んだが、レナは振り返らなかった。

「きつく言い過ぎたか…」
俺が爆発に巻き込まれ爆死しようと、そんなことはどうでもいい。
けれど、彼奴を巻き込むのだけは避けたかった。

(ぼうっとしている時間はない)
集中しようと自らの頬を両手で挟み込むように叩き、工具をもう一度ギュッと握り直した。

けれど、思いだしてしまうのはレナのことばかり。

嫌い？
そんな訳―――

「どうして……」
レナは優しい奴だ。
きっとあれくらい言わないと、俺のことを心配してここに残るに違いない。

もう誰も失いたくないから。
なんて俺の、エゴだろうけど。

(あんなに傷ついた顔をするとは思わなかった)

小さく舌打ちをした。今の俺はきっと、酷い顔をしているだろう。
こんな情けない姿、レナには見せられないな。

「クソ…ッ」

思い出せない。この配管はどうする？このコードは？何から先に切ればいい？
焦りが募り、余計に頭の中はこんがらがる。
コードを切ろうとする手が震える。
これで合っているのか？もし間違えたら、間違えたら――――

迷っている暇はない。
「どうすればいいんだよ、松田……！！」
記憶の中の友人に八つ当たりしながら、俺は目を閉じ、ふうっと息を吐いた。

(焦りこそ、最大のトラップだったな。松田…)

いったん落ち着くと、熱くなっていた脳内はひんやりと冷めていき、随分と落ち着きを取り戻した。

(大丈夫だ。分かる)

配管の種類も、コードを切る順番も、分かる。
(松田の技術は完璧だった。その技術を教えてもらったんだ、きっと大丈夫)
根拠のない自信ではあったが、思いこむことによって少しだけ安心できた。



『次は…コレをこう…か？』
『流石だな、降谷。完璧だ。もう俺が教えることはねぇよ』
『完璧？まだまだだろ？…って、次はどうするんだったっけ…なあ松田？』
『次はな……』




警察学校時代の遠い思い出だ。何故こんなときに思いだしてしまったのか。
(女の扱い方も教えてくれればよかったのに)
そんなことをふと思い、思わず自嘲的な笑みが漏れる。

レナは怒っているだろうか。
(無事にこの事件が幕を閉じることができたら、謝ろう)

「…余計なことを考えている余裕はないな」
頭を左右に振り、脳内を空っぽにする。
(今はこの爆弾にだけに集中しなければ)

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