棋士遊女 ページ41
｢須磨様が数日前から行方知らずなのです。｣
｢やはりか。手紙が途絶えたから気になってはいたが…｣
｢須磨様の行方も探りますか？｣
｢いや、相手に感ずかれたら不味い、お前は今まで通り動け｣
｢…はい。｣
絶対に助けたいはずなのに。
少しでも情報が欲しいはずなのにそれでも安全第一に動けるよう退路を確保してくれる。
言葉と裏腹に優しすぎる上司にもどかしい気持ちになった。
｢いやまぁしかし、あのガキにもお前のこの姿をみせてやりたいもんだな。｣
｢い、嫌ですよ！遊女の姿なんて…好きな人に見られたくない…｣
｢そういうもんか？うちの嫁たちは喜んで見せてきたもんだが…｣
奥様方とは立場が違います、と言えば小さくため息をつかれた。
｢でもお前、任務でここに居ることアイツに言ってあるんだろう？｣
｢一応文で伝えましたが…でも遊女として潜入してるなんて言えません…｣
｢ほんと、ガキの惚れた腫れたは派手にめんどくせぇな！せっかくだから少しくらい手解きしてやろうか？｣
｢丁重にお断りします。彼以外に許すつもりはありません。｣
そう言い捨てれば、いいぜ、その気概は買ってやる、と笑みを浮かべた。
｢お前、将棋が強いんだってなぁ？｣
｢まぁ、程々に。体力がない分頭を使う遊びは好きなので｣
ならそれでいこう。と言う彼にわたしは首を傾げた。
｢部屋に上がっても床の相手をしない女にしてやるって言ってんだよ。将棋の強い遊女が居て、抱くのも忘れる程朝まで楽しく指しちまったって、広めといてやるよ。｣
｢そんなこと通用しますか？おかぁさんに怒られそう…｣
｢合間にお前の作った夜食でも出してやれ。その夜食食いたさに客もつくぞ。｣
花街にはそういう遊び方を好む奴も一定数いるからな、と 言った彼の言葉に些か不安はあったが、今はその言葉を信じる他なかった。
そうして数日。
天元様の言ったように『床に入らない遊女』の噂は瞬く間に広がって。
突き出しを迎えてから1度たりとも、遊女としてのお役目を果たしたことはなかった。
実際、部屋に上がる客の中にはわたしと何局指したところで勝てる者は1人もおらず、その悔しさと面白さに何度も通いつめる者までいた。
床仕事をしなくても安定して客がつくからと、店のおかぁさんは気前よくその状況を許してくれて、わたしに厨を自由に使う許可もくれた。
そうして今日も情報を集めながら客と将棋指しに明け暮れている。
いまここにいる男もまさにそれだ。
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ひな(プロフ) - とろ玉うどんに使われてる器さん» コメント頂き有難うごさいます。面白いと言って頂けて嬉しいです。拙い文章ですが少しずつ更新していきますのでお暇つぶしにでもして頂けたら嬉しいです。 (2020年1月11日 18時) (
レス) id: bfebdd5928 (このIDを非表示/違反報告)
とろ玉うどんに使われてる器 - 凄い面白いです！一気に読んじゃいました！！！玄弥可愛い．．．！！ (2020年1月10日 19時) (レス) id: b3c78b6606 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひな | 作成日時：2020年1月4日 15時
