散らない花弁 ページ40
「鯉夏姐さん、追加のお銚子です。」
「有難う。お前もそこでご一緒しなさい。」
「あい。」
鮮やかな裾を引いて、賑やかなお座敷に上がる。
今しがた声をかけられた上座に座るその人と、その人の肩を抱いて調子よく酒に酔った男に向かって深深と頭を下げた。
「爪紅と申しんす。」
「はぁー、またおぼこい新造だなぁ!」
「まぁお前様、突き出しの日にそんないけず言うのは辞めなんし」
ふふ、と上品に、綺麗に引いた紅が弧を描いた。
「姐さん、そこな色男はどなた?」
さも知らない風に正面の男を見据えながら、上座の鯉夏花魁に尋ねれば、可愛らしい声でコロコロと笑う。
「あれまぁ、爪紅はそこの色男がお好きなんですって。お前様、教えてやってくださいな。」
「宇隨さんはなぁ!色男だが悪いやつだぞー!新造なんて泣かされるだけだぁやめときな!」
「なんて事言うんだ呉服屋の旦那。自分がもてたいからってあんまりじゃねぇか。」
姉女郎の客がその人をからかえば、困ったように笑ってそう言った後、わたしに視線を向けて、人の悪い笑みを浮かべた。
「しかしまぁ、たまには新造遊びも良いだろうなぁ」
そう言った彼に姉女郎は嬉嬉として目を輝かせて、そして少女のような曇りない笑顔で両の手を合わせた。
「まぁ、じゃあ宇隨さん、その子の初めての人になって下さらない?」
「ほお、良いぜ。花魁の頼みとあっちゃ断れねぇからなあ」
あれよあれよという間にトントン拍子に話が進んで。
姉女郎に恵まれたおかげで、この年齢での花街入では異例の部屋持ちとなったわたしの寝所にその人を向かわせ、身支度をされた後、わたしもその場所へ向かった。
「おぅ、待ってたぞ!」
静かに戸を引いて中に進めばそう言って笑った彼。
引戸を閉めて、長い長いため息をついたあと、目の前のその人を睨めつけた。
「もぉおおおお天元様ぁ!!!!わたし疲れました!!!帰りたい!!」
「そんなこと言ってしっかり出来てんじゃねぇか、なぁ爪紅。」
「任務だからですよ!」
あとその爪紅って辞めてください、と頬を膨らませれば、へぇへぇ、とあしらわれた。
「近況はどうだ。」
「今のところときと屋にそのような気配はありませんね…ただ、京極屋さんからは良くない噂をよくよく耳にします。なんでも足抜けする子が多いとか…」
「京極屋ねぇ…」
なにかを考えるように黙り込んだ上司に言うか言うまいか悩んだところだが、それから、と続ける。
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ひな(プロフ) - とろ玉うどんに使われてる器さん» コメント頂き有難うごさいます。面白いと言って頂けて嬉しいです。拙い文章ですが少しずつ更新していきますのでお暇つぶしにでもして頂けたら嬉しいです。 (2020年1月11日 18時) (レス) id: bfebdd5928 (このIDを非表示/違反報告)
とろ玉うどんに使われてる器 - 凄い面白いです!一気に読んじゃいました!!!玄弥可愛い...!! (2020年1月10日 19時) (レス) id: b3c78b6606 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひな | 作成日時:2020年1月4日 15時