大切なのは ページ32
「俺の、気持ち…。」
宇隨の言葉にハッとしたように顔を上げると、少年の前には楽しそうに笑った宇隨の顔。
覚悟決まったかよ?、と問うた彼に、少年は静かに頷いた。
「ところで…」
「まだなにか……?」
「好きも何も言う前にAに接吻した奴ってのはお前だろ?」
「なっ…んでそれを…!!!」
人の悪い笑みを浮かべそう言った宇隨に、少年は耳まで真っ赤にしながら後ずさった。
「Aがいじらしく相談しにきてなぁ…『男は好いた女以外にもそういう事出来るもんなのか』ってな。で、好いた女の唇は善かったか?」
「〜っ!人で遊ぶのはやめろっ!」
「ハハッ、やっぱガキだなぁ!ま、それがホントの話だってならもう、てめぇは黙ってただあいつを抱きしめてやんな。今のあいつにゃ、それで充分だろうよ。家族同然だった煉獄が死んじまって、今のアイツは心に穴が開いちまってるだけだ。それをてめぇで埋めてやれ。」
少年をからかって笑っていた宇隨だが、ふと真面目な顔で少年にそう告げれば、少年も素直に頷いた。
一瞬だけ静かに、緩やかな時が流れて。
それをかき消すように宇隨は少年の背中を思い切り叩いた。
「い゛っ」
バシンっ!という中々にいい音が響いたため、疎らではあったものの、食堂に残っていた隊士達が一斉に2人を振り返り、そして何事も無かった事を確認するとまた元通りの喧騒となる。
「さぁ!そうと決まりゃさっさと行け!時間は待っちゃくれねぇからなァ!」
「い、今から…?」
「なんか文句あんのか?」
「…俺、あんた嫌いだ…」
結構!と笑う宇隨に少年もため息1つして小さく笑って。
大きく息を吸うと覚悟を決めたように前を向いた。
「Aなら部屋で休んでるぞ。」
「っス。」
「…部屋の外に居てやろうか?」
「いらねぇ!!!絶対来んな!」
最後の最後までからかい倒してくる宇隨にしっしっ!と手で払えばそれでもニヤニヤと少年を見る宇隨の顔は悪戯っぽさを含みながらも、優しさが滲み出ていた。
大人ってのは子供たちの成長は須らく嬉しいもんだからなぁ、と呟いた彼の声は、月だけが静かに見ていた。
『これから』を作っていく少年たちの幸福な未来を願いながら。
「誰か捕まえて1杯やるかねぇ」
今夜は酒が美味くなりそうだ、と溢し、自分の屋敷へと足を進めた。
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ひな(プロフ) - とろ玉うどんに使われてる器さん» コメント頂き有難うごさいます。面白いと言って頂けて嬉しいです。拙い文章ですが少しずつ更新していきますのでお暇つぶしにでもして頂けたら嬉しいです。 (2020年1月11日 18時) (レス) id: bfebdd5928 (このIDを非表示/違反報告)
とろ玉うどんに使われてる器 - 凄い面白いです!一気に読んじゃいました!!!玄弥可愛い...!! (2020年1月10日 19時) (レス) id: b3c78b6606 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひな | 作成日時:2020年1月4日 15時