暗闇 ページ29
名前を聞くだけで胸がときめいた彼も。
今は何の感情も起こらない。
私の中の感情が全て死んでしまったのかと錯覚する程、何も考えることが出来なかった。
｢わたしはもう行きますから、何かあったら遠慮なく知らせるんですよ？｣
｢……ごめんね…ありがとう…｣
鼻を愚図らせながら、悲しいのは私だけじゃないとわかっている罪悪感と、介抱してくれたお礼とを織り交ぜてそう告げれば、彼女はそっと近寄って、優しく私の頭を撫でてくれた。
何も言わず、ただ、ただ。
慈しむように優しく頭を撫でて、そして、静かに部屋から出ていった。
｢……師範……｣
思い出されるのは暖かいあの笑顔。
いつもわたしを支えてくれた厳しくも優しい言葉。
私の幸せを願ってくれたあの瞳。
｢ふっ……う、くっ……｣
何一つ、あの人に返すことが出来なかった…。
与えてもらってばかりで、何一つ。
あの人らしい最期だと思った。
乗客を1人も欠かすことなく無事に救出して、弱き者の為に最後まで戦い抜いた、実にあの人らしい最後だ。
そんな人の弟子であった事を、わたしは誇らしく思うべきなんだと、そんな事は100も承知だった。
それでも、悲しみは尽きず枯れたと思っていた涙は未だに溢れ続ける。
なぜ、どうして。
そればかりが頭を過ぎった。
もしわたしがもっと剣士として才があれば、師範の命を落とすことなく助けになれただろうか。
否、きっと足手纏いにしかならなかっただろう。
師範はいつだって弟子の私を庇って戦っていたのだから……。
何も考えずに居られたなら、どれだけ楽だろうと思った。
御館様は暫く休んでいいと仰ってくれたようだけれど、何もしていないと悲しいことばかり考えて余計に胸が痛くなりそうだ。
モゾモゾと再び布団に潜り込んで、この静かな静かな夜が開けるのをひたすら待って。
明日からは何も考えなくて良いくらい働こうと。
そう決心して目を閉じた。
幸せだったあの頃に戻れたらと、そう何度も願いながら。
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ひな(プロフ) - とろ玉うどんに使われてる器さん» コメント頂き有難うごさいます。面白いと言って頂けて嬉しいです。拙い文章ですが少しずつ更新していきますのでお暇つぶしにでもして頂けたら嬉しいです。 (2020年1月11日 18時) (
レス) id: bfebdd5928 (このIDを非表示/違反報告)
とろ玉うどんに使われてる器 - 凄い面白いです！一気に読んじゃいました！！！玄弥可愛い．．．！！ (2020年1月10日 19時) (レス) id: b3c78b6606 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひな | 作成日時：2020年1月4日 15時
