つかの間の幸せ ページ27
「師範、わたし…好きな人が出来たんです。」
「む、なんと!喜ばしい事だな!」
「多分、相手の方も私を好いてくれてると…思うのですが…」
苦笑しながら言い濁すと、師範が不思議そうに私を見た。
「『音』は聞こえないのか?」
「彼からは複雑な音が聞こえるので、なんとも…」
なんと…と困ったように笑った。
「しかしなぁA!それもまた一興だ。お互いの思いがわからないからこそ、人間は面白い!互いに考え、尊重し合い、時にはぶつかり、理解し合う。言葉にせずとも全てわかるなら、我らの意思疎通に言葉は要らんからなぁ!」
「そうですね。私自身がもう少し気持ちが落ち着いたら、彼に打ち明けてみます。」
そうしろそうしろ!!と力強く背中を叩かれてその気持ちが嬉しいやら叩かれた背中が痛いやらで(正直物凄く痛かった。物凄く。)笑ってしまったが、師範に報告しておいて良かったな、と心底思った。
「して、相手はどんな男なんだ?俺が知っている男か?」
「優しい人ですよ、同じ隊士ですが、師範は会ったことあるかしら…?」
「む、焦れったい奴だ!早く吐け!」
グシャっとふざけて髪の毛を乱されたので、辞めてくださいよ!っとこちらも冗談半分で怒ればすまない、と笑われた。
「あの、実弥様の弟さんなんです。不死川玄弥くん。」
「む、会ったことはないが…そうか、不死川弟か!奴の弟ならお前をしっかり守って大事にするだろう!心配は要らんな!」
恐らく実弥様のおかげで信頼にあたる男だと認識されているようなので、つい先日彼に突然接吻されたことは黙っていよう、と心に決めた。(そんな事言ったら温厚な師範といえど彼をどつきそうな気がしたからだ。)
自らが乱した髪を丁寧に梳いて直しながら、師範は優しく優しく微笑んで。
「A、お前は世界一幸せになれ!好いた者と結ばれ、子を為し、年老いて、人としての幸せを全うして死ぬのが、お前らしいというものだ!」
「もう、師範ったら急に何ジジくさい事言ってるんですか。」
「む、ジジくさいとはよもや失礼なやつだな!」
私に「幸せになれ」と、何度も何度もそう言って、お前の幸せは俺が守るぞ!と笑った師範。
この人が師範で良かったと、そして兄のように慕って育ってきたのがこの人でよかったと、改めて思い涙が出そうだった。
この時の私は、まさかこれが師範との最後の会話になるなんて思いもせずに。
彼への想いが成就したら真っ先に知らせようと、心穏やかに隊舎へと帰ったのだった。
19人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひな(プロフ) - とろ玉うどんに使われてる器さん» コメント頂き有難うごさいます。面白いと言って頂けて嬉しいです。拙い文章ですが少しずつ更新していきますのでお暇つぶしにでもして頂けたら嬉しいです。 (2020年1月11日 18時) (レス) id: bfebdd5928 (このIDを非表示/違反報告)
とろ玉うどんに使われてる器 - 凄い面白いです!一気に読んじゃいました!!!玄弥可愛い...!! (2020年1月10日 19時) (レス) id: b3c78b6606 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ひな | 作成日時:2020年1月4日 15時