Episode109.慰め ページ10
side.七海
ガチャ、と玄関の開く音がした。
帰ってきたか、と顔をあげれば酷く疲れた顔をしているAさんの姿があった。
五条さんから聞いていたがこれ程とは…。
七海｢おかえりなさい。｣
貴方｢…ただいま｣
七海｢ご飯は食べれそうですか？｣
貴方｢うん、…。｣
伏せられた瞳に光はなく、絶望だった。それほどあの人たちが大切だったという事だろう。…悔しいが。
あまり関わりの無い人に軽い嫉妬心を抱きながら、Aさんにご飯を出す。
少しだけ出てきたお腹を撫でながら座る彼女を見て、彼女なりの頑張りだから言うことは無いか、と判断する。
七海｢どうぞ。熱いので気を付けてくださいね｣
貴方｢うん、ありがとう｣
この状態で任務に行かせるのは少し怖いな。そう思い仕事用のタブレットを取り出し、彼女の予定を確認する。
明日は1級の依頼が2件…。私の方は準1級1件だけ。距離も近いし時間外労働にはならないか、と判断し伊地知くんへ連絡をする。
七海｢Aさん、明日の任務は全て無くなりましたよ。ゆっくり休んで下さいね｣
貴方｢え…。明日は2件あったはずなんだけど｣
七海｢私が行きます。距離も近いですしね。貴方はゆっくりと心と身体を休めてください。｣
貴方｢…なんでもお見通しじゃん｣
七海｢えぇ、そうですよ。貴方が頑張っていることは私はもちろん、高専の皆さんも知っていますよ。明日休んだところでバチは当たりません。｣
貴方｢…ありがとう、健人｣
人を慰めるのは昔から苦手だった。私自身が慰められるのも含めて、だ。
変に気を使うのが嫌だったから。でも、この人に出会ってからは苦手では無くなった。
七海｢…あの、お腹…触ってもいいですか？｣
貴方｢うん、いいよ｣
暖かい人の温もり。この前まで割れていた腹筋はどこに行ったのか。
七海｢そろそろ折り返しなのにそれ程大きくないんですね｣
貴方｢硝子曰く、私の体質らしいよ。腹筋があって抑えられるのと、子供がしっかり頭を下にして縦になってるんだって。骨盤がどうとかも言ってたかな｣
七海｢なるほど。頭を下にしている、と言うことは難産では無さそうですね｣
貴方｢ねー。｣
自分のお腹を撫でる彼女には、もう暗い感情は見当たらなかった。
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作者名：ハク | 作成日時：2022年4月12日 20時
