28.虹が架かったらサヨウナラ ページ29
.
.
陽菜ちゃんのラブレターを胸に抱いて、私は家に帰った。
.
.
雅紀くんはまだ病院にいたけれど、私は雅紀くんに会う気力は無かった。
あんな陽菜ちゃんの渾身の愛を受け取った後で、雅紀くんの顔を見たら本気で土砂降りになりそうで
虹なんかは架かりそうにないから、私は早足で家へ帰った。
.
.
雅紀くんに、精一杯のものを。
.
私は家に帰るなり、荷造りなんかは夜中にやる！とお母さんたちに告げて
机と椅子に身体を委ねて、ペンを持って、紙と向かい合って。
ただ、精一杯を。紙に伝えた。
.
.
明日、この町からいなくなる。
.
.
雅紀くんと噴水で水遊びをした公園。
二人で立ち読みした本屋さん。
歩き慣れた通学路。
雅紀くんの部屋。
私の部屋。
二人で食べたご飯。
.
二人で虹を見た、帰り道。
.
.
想い出は走馬灯のように過ぎ去っていく。
.
.
「……、…。」
.
.
そっ…と手紙を封筒に入れて、仕舞い込む。
私の秘密のラブレター。
雅紀くんに届くかな。届けば、いいな。
.
もしかしたら、私が笑う頃に雅紀くんが泣いていたのかと思うと胸が痛くなる。
.
.
でも今更そんなこと悔やんでも仕方がない。
過去は取り戻せない。だから、等身大の想いを手紙に込めて
雅紀くんに届けるよ。
.
.
.
.
母「Aー、車乗っちゃってー」
「はいはいはい、待って待って」
父「雅紀くんは？いいのか？」
「雅紀くんにはいつ出発って言ってないよね？それに今日は…来れないよ」
母「え？言ってないけど」
.
「今日は、陽菜ちゃんを見送らないといけない日だから来れないよ」
.
.
お母さんたちにそう言うと、お母さんたちは何を言ってるんだか分からない顔で車に乗り込む。
私は昨日書き上げた手紙を、雅紀くんの家のポストに投函する。風が吹く。
ーーーー…すると。
.
.
「虹……」
.
.
さっきまで天気雨が降っていたからか。まるでいつか雅紀くんと見た虹のように、同じ位置に
夢の続きを描いているように、そこに飄々と架かっている。
.
そうだね、陽菜ちゃん。
私もこれで十分だよ。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3891人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
