23.瞬間の。 ページ24
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風間くんの難点は。
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「え…？」
風間「え？」
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時折、私の心臓や息の根を止めてこようとするところ。
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落ち着け。落ち着け、落ち着け。
松本、なんてそこら中ゴロゴロ落ちてる苗字じゃないの。
誰も私の知ってる松本、だなんて言ってない。一言もそんなこと言ってない。
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それでもその苗字に過剰に反応してしまうのは。
意味なく泣きたくなってしまうのは。
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風間「あ、寿司来た。ほい甘エビ」
「……」
風間「伊藤？甘エビ」
「えっ？あっ、ありがとう」
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私の中で確実に、あの人が『忘れられない男』になっているから。
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いただきまーす、と風間くんが箸を持って手を合わせてカッパ巻きをモグモグと咀嚼する。
回転寿司に来るたび思う。なんで最初がカッパ巻きなんだろう。
そんなにカッパ巻きが好きなの？と訊けば答えは「いやそんなに」。ならなんでカッパ巻きなのか。
そこら辺はよくわからないけど、何回も同じ質問しても意味がないので諦めた。
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私も箸を持って、手を合わせて頂きますとぺこりと頭を下げて醤油皿にお寿司を持っていく。
その最中、風間くんが注文をするためにモニターを見ながらいつもより低い声を出した。
ふんわりと醤油の豊かな風味と、甘エビのぷりぷり感が口の中で踊る。
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風間「松本さんって知らない？伊藤」
「…知らない。私の知ってる人？」
風間「バイト先のさ常連さん。知らない？結構イケメンなんだけど」
「面食いとでも言いたい？私が」
風間「そーいうわけじゃないけど。あー、でも伊藤がシフトの時はいないかも。伊藤晴れ女だから」
「…は？何言ってんの(笑) あ、私マグロ」
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かちゃん、と風間くんと私のお皿が重なり合って2皿になった瞬間だった。
私がコップに口をつけた、瞬間だった。
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風間「その人、雨の日にしか来ないんだよ」
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ドクン！と心臓が嫌な鳴り方をした。
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雨。
…雨？
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ーーー…潤『A』
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消毒液のにおい。
眩いぐらいの白い白衣。
泣きたくなるほどの雨。
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風間「…伊藤？」
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一瞬にして、体温が蘇る。
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