18.恋をしたのは ページ19
.
.
『伊藤さんは、先生が好きだよね』
.
.
ザーーーーーーーーーと言うシャワーの音が私の身体を包み込む。
.
.
「……」
.
何も着ない状態。生まれたばっかの時のような状態。つまり裸でシャワーを浴びる。
容赦なく顔に垂れる熱いお湯に耐えられなくて、目を瞑る。
湯気で小さな鏡が曇っていた。
.
.
私はニノ先生が好きだった。
.
いつだって私のことを気遣ってくれて、冗談なんかも言って笑わせてくれて。
今までの先生とは感覚が違う。
笑う時にキュッと上がる口角。それにつられるホクロ。猫背な後ろ姿。少し跳ねたえりあし。
全部が好きだって、確かに好きだって
.
ーーー…これが恋なんだって。
.
.
ーーー…潤『A』
.
.
でも今思えば、それはただの憧憬だったのかもしれない。
.
恋を憧れに変換して、恋に恋してた。
相川ちゃんを見つめるニノ先生の瞳は確かに恋に落ちていた。
誰がどう見たって、世界は恋の色を映していた。
.
想い人に想い人がいれば、報われるはずがない。
報われるのが怖かったのかもしれない。
恋が実ってしまって、愛されるのが。愛されて、その恋さえもいつかは壊れてしまうのかと毎日毎日怯えることが怖かったのかもしれない。
.
.
なのにーーー…。
.
.
「………」
.
キュ、とシャワーを閉める音が響く。
.
.
あの人は怖くない。もし壊れたとしてもそれでも構わないと思える自分がいる。
こんな感情初めてで、形容なんて出来やしない。
ポタポタ…と垂れる、まとわりつくお湯が気持ち悪くて貸してもらったタオルで丁寧に拭き取る。
.
扉を開けるとカーテンが引かれてて、あっちからはこっちの様子はまるで見えない。
小さなカゴがあって、そこに置かれていた私の制服。
先生が畳んだと思ったら、その形の制服を崩したくないとまで思った。
.
.
ペタ…とシャワー室から出る。
.
.
潤「A」
.
.
するとまるで私を見張っていたかのようなタイミングで
カーテンの向こう側から、先生の声が私の鼓膜をしっかりと揺るがした。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4747人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
