自分らしくない恋 (ページ5)

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あれから、数時間後に橋の上でスケッチした。

姉さんと石田はいなかった。

まだまだ描くのに時間が掛かりそうだ。

夜まで描きたいけど、家族が心配するだろう。

でも、夜は好き。

暗くて落ち着くし、優しく寄り添ってくれる。

「あれ、Aくん...」

名前を呼ばれた気がして、声のする方を見た。

『石田...』

いつの間にか、もう暗くなっている。

「えっと、送ろうか？」

『......』

石田の言葉を無視する。

そして、スケッチブックに鉛筆を走らせる。

一つの物体を描き終えた時にもまだ、石田は居た。

『ボクはお前を許せない。ボクはお前に何もされてないけど、嫌いだ。今更、手話を覚えて姉さんに会って、自己満足するだけなら、もう姉さんに会わないでくれ。』

石田は黙って聞いていた。

「...そうかも知れない。ただの自己満足で手話を覚えて会ってるかもしれない。でも。俺、は」

言い訳なんて聞きたくない。

ボクは立ち上がって、歩き始める。

石田はボクの後を着いてきて、ボクの隣まで自転車を押している。

何でだろう、また心臓がうるさい。

もう少しで家に着くところで

『ここでいい』

と立ち止まった。

心配がうるさくて耐えきれなくてなのか、ただ単に石田が嫌いで、一緒に居たくないから立ち止まったか、それはボクにも分からない。

「またね」「ばいばい」

など言わずに、すぐに走ろうと思った。

だけど、石田は「またな」と言った。

『！』

言われるとは思ってもいなかった。

ここは素直に喜んでいいのだろうか。

少しだけ、嬉しいって思ってしまった。

どうしたらいいのか分からず、

『...じゃあな』

"また"なんて、もう会う気は無いのに、ボクは手を挙げて「おう」というように返した。