【実.況.者】出逢いはきっと奇跡じゃない【短編集】

無言は肯定を含みます /us ページ42

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「トリックオアトリート」



両手を出してオネダリをする。

牛沢は、お風呂から上がるなり私にそう言われたからか少し驚いたような顔をしていた。

ふふん、この家のお菓子は昨日食べ切ったから牛沢は大人しくイタズラされるしかない。

普段からかわれてばっかりだから仕返し、と言わんばかりに擽ってあげよう。

そう私がニヤケそうになっていると牛沢は楽しそうに笑った。



「ない」



...ひ、開き直った？

背中を嫌な汗が伝っていく。

私の方が有利な状況の筈なのに目の前のこいつのニヤニヤとした笑みに嫌な予感しかしなかった。



「イタズラっ子にあげるお菓子はありませ〜ん」

「い、イタズラなんて...」

「どうせ俺のこと擽るつもりだったんでしょ？」



うぐっ、と言葉に詰まる。

全てお見通しらしく、あるはずのないお菓子を貰おうとした両手が固まったまま目線を逸らした。

するとスっと両手に手が重ねられる。
目を逸らしていたせいで近くに来るまで気付けなかった。

ぜ、全部が裏目に出てる...！！


思い切ってイタズラすればいいのかもしれないけど、それが出来ないのは試すような視線を向けてくる牛沢のせいだった。

その瞳に絡め取られたら最後、"仕返しをしようとした仕返し"が始まる。



「どうする？俺にイタズラしてもいいけど」

「...えっと...」

「あ〜あと、この家にお菓子ないから...Aもイタズラされるよな？」



逃げ道が用意されていない！

肯定も否定も出来ないまま固まっていると牛沢は痺れを切らしたのか私の首に擦り寄ってきてそのまま口づけを落とした。



「何も言わないなら好きにしていいよな？」



目が合ったのが運の尽きだった。

何も言えない＿＿言わないまま、大人しく目を閉じた。

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