【実.況.者】どんな日だって君だけは【短編集】 (ページ7)

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今日でようやく追いついた /us ページ7

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「……来るの早いな」
「牛沢こそ。何、卒業式楽しみだった？」

私がそう言うと牛沢は「まさか」と笑った。
そりゃそうか、私達の卒業式でもないんだから。

まだ2年で、仲のいい先輩がいる訳でもない私は卒業式なんてほとんど関係がなかった。何時間も寒い体育館で座らされるなんて地獄以外の何物でもない。
それなのに一番乗りで教室に来た理由は特になくて、強いて言うなら何となくだった。

窓の外へまた目を向け直せば、わざとらしく「あ」と声を上げた牛沢がこっちへ近づいてくる足音が聞こえる。

「誕生日おめでと。卒業式と被るなんて災難だな」

……そう、卒業式当日は私の誕生日だった。このシーズンの誕生日なんて忘れられるし他のイベントのインパクトが大きくてで散々ではあったけど、牛沢がこうして言葉だけででも祝ってくれるのが少し嬉しかった。
少し苦笑混じりに同調していれば、不意に牛沢が真剣な顔になった。

「……そういえば、いいの？」
「いいって、何が？」

そんな躊躇った顔をされても伝わらない。
言いづらい事なのか数秒口淀む。そして、やがて決心したのか小さな声が聞こえてきた。

「……好きな人、1個上っつってたじゃん。今日卒業すんじゃねえの？」
「あー……そんなことも言ったね」

卒業してしまう前に思いだけでも伝えたい、なんてよくあることだし牛沢もそれを言いたいんだろうけど、失敗した時の保険をかけてるように思えて卒業式の日の告白はどうにも好きになれなかった。

……というかまあ、確かに好きな人は1つ年上だって言ったけどさ。
それはあくまで"その時は"そうだっただけで今もそうかと言われたら……答えは否だった。

「それね、もう同い年だよ」
「……は？」

一瞬意味が分からない、という顔をした牛沢に笑う。

……ねえ知ってる？
自惚れかもしれないけど、牛沢は私と話す時だけよく眼鏡を直すの。
前に自分で言ってた、照れた時の癖。

「今日で、やっと同い年」

私がわざわざこう言う意味、分かる？
そう煽ってみれば数秒放心した牛沢はクイッと眼鏡を上げて「敵わねー」と天を仰いだ。
そして顔を戻して、１回深呼吸をする。

「……好きだよ。Aのこと、ずっと」
「私も好き」

卒業式の日の告白は好きじゃないけど、2年生(私達)の場合は例外でもいいと思うから。

また眼鏡を上げようとする牛沢の手を掴んで、強く抱きしめた。

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