言葉にするのは照れるから /rt ページ6
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ピンと伸びた後ろ姿を見る。
卒業証書を待って座っている3年生の中で、レトルト先輩しか目に入らなかった。
1年生の私とでは何十人もの人が間にあってどうしたって遠かった。大声で叫んで、やっと聞こえる距離。
そんな離れた距離のせいで、彼が卒業するんだということを嫌でも意識して何度も泣きそうになっていた。
「……本当に卒業しちゃうんだよなあ……」
卒業式が終わって、ぞろぞろと外に出てくる卒業生を遠目に見ながら校舎内のトイレに駆け込む。
泣いたせいで完全に真っ赤になった目元をメイクで誤魔化してぎゅ、とスマホを握った。
今来たばっかりのメッセージはレトルト先輩からで、「今から会いに行く」と送られてきていた。
それを見て、また正面玄関へと足を運ぶ。
ただひたすらに、レトルト先輩がこの学校からいなくなってしまう事実から目を背けようとしていた。
「Aちゃん!」
「あっレトルト先輩!ご卒業おめでとうございます」
さっきまでの沈んだ気持ちを押し殺してペコ、と頭を下げると上から嬉しそうにお礼を言う声が降ってきた。それを聞いて、もう一度スマホを握り直す。
「先輩の制服姿最後かもしれないので写真撮ってもいいですか?」
「もちろん。……え、Aちゃん写らんの?」
「えっ写っていいんですか!?」
レトルト先輩にカメラを向けると驚いたように声をあげられる。
そういえば、何となくレトルト先輩の隣に並ぶのが恥ずかしくて2人だけで写真を撮ったことなかった。
そう思い出して途端に緊張して、画面の中の顔も少しだけ強ばってしまった。
……でも、初めての2人の写真だ。
嬉しくて見つめていると、横から私の顔をじっと見てきたレトルト先輩が少し嬉しそうに眉を下げた。
「目赤いのは、俺のこと想って泣いてくれたってことでええの?」
「……バレちゃいます?」
「分かるよ。Aちゃん、ほんま俺のこと好きやな」
そう笑うレトルト先輩にまた泣きそうになっていれば、唐突に花束を渡された。
これ、卒業生が貰うやつじゃ……。
「Aちゃんのが似合うからあげる。……じゃあ、またな」
「えっ、あ、はい!」
やけに急なお別れに悲しむ間もないままびっくりしてるとレトルト先輩は足早に歩いていってしまった。
「……あれ、これ……」
呆然と花束を見つめるとメッセージカードが埋もれてるのに気付く。
それは紛れもないレトルト先輩の文字が綴られていて、気付けば走り出していた。
『好き』
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今日でようやく追いついた /us→←約束を握りしめて /ky
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作者名:ユシア | 作成日時:2021年2月14日 23時