【実.況.者】どんな日だって君だけは【短編集】 (ページ5)

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約束を握りしめて /ky ページ5

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「待って、Aさん！待てって！！」

俺が声をかけても足を止めないAさんにイラついてダッシュして肩を掴む。
何とか振り向かせると、ボロボロと涙を流していた。

……逃げてた理由はこれかとため息を吐く。

卒業式とか諸々面倒な式が終わってやっと会いに来れたっていうのに逃げ続けられた俺の気持ちにもなって欲しい。

「……泣いてるの見られるの、そんなに嫌だった？」
「……だって高校生として会えるのもう最後なのに、泣き顔なんて嫌でしょ？」

そう言って涙を拭うAさんは大人っぽく見えた。

……ずりいな、本当に。
俺はもう1年通わなきゃいないのにそこにAさんはいない。
それを嫌だと駄々こねてんのはずっと俺だけかと思ってた。
でも少なくとも、Aさんも寂しく思ってくれてんだ。

「ごめん、もう大丈夫。もう泣かないから……って、何でキヨが泣くのよ」
「泣いてねえし！」

グイッと袖で目元を拭うけど明らかにブレザーの色が濃くなったから隠しきれる訳がなかった。
折角Aさんが笑顔になろうとしてくれてるのに俺が泣くなんてダメだろ。

案の定Aさんは困ったように眉を下げていた。

「……俺もAさんと同じ年が良かった、同じクラスが良かった。何で年下なんだろ、俺」
「……ねえやっと泣き止んだのにまた泣かせるようなこと言わないでよ」

2人して声が震えている。
さっきまで聞こえていた遠くの喧騒も聞こえないくらいに2人の世界だった。

一生会えなくなるわけじゃない。
明日にだって会おうと思えば会える距離にはいる。

それでもこんなに涙が止まんないのは卒業式の雰囲気に流されたせいだ、絶対。

涙を止めようと必死な俺に対してAさんは大きく深呼吸をして花が咲いたように笑った。

こういうとこが敵わないし、追いつけない。
Aさんから見たら俺はまだまだ子供だ。それが悔しくて、情けなくて。

「……第二ボタン、予約させてくれる？」
「もちろん」

それでもそんな俺に1年後の約束をしてくれたことがどうしようもなく嬉しくて、第二ボタンをぎゅっと握りしめて笑った。

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