私の彼氏さん (短編集1)

余韻の後(江口拓也) ページ28

そのあとの事はよく覚えていない。
必死に場所をタクシーに伝え、

無理を言って超特急で走ってもらった。




ライブ会場についたのはその1時間後で。


現在時刻、20:00
ライブが終わった頃。





会場には出てきたお客さんが大勢いて。
中には泣いてる人もいた。





ちゃんと、会いにきたんだから。
顔ぐらい…みたいのに。





『すいませんッ、…通してください！』



大勢の帰る流れに逆らって会場へと向かう。
早く会いたい。

まだ帰らないで。





『はぁッ…はぁッ…、あのっ！！関係者です…。』


階段を登り、警備員さんにチケットを見せると、警備員さんがすぐに開けてくれた








お礼を言って中へ。



ライブが終わった後で、
スタッフさんや色々な人がごったがえしていた。




拓也はどこにいるんだろう…。
楽屋？

ステージ？






とにかく走ろう。

私が感じたのはステージ。
きっと彼はステージにいるはず…。

ーーーーーーーー









ーーーーーーーーー







『拓也ッ!』


広いステージに走り込み大きな声で彼の名前を呼ぶ。


いるかな…
もう、いないのかな…。



息が切れても関係ない。
汗を拭って周りを見渡す。




『拓也ッ、拓也ッ…』


喉が枯れるまで叫ぶつもりだった。
声が涙に変わる。






間に合わなかった…
そんな悲しさがこみ上げてくる。









その時、


後ろから暖かいものに包まれた。









一瞬戸惑った。









でも、それは 私の大好きな匂いで。





「そんな呼ばなくても聞こえるから。」


『拓也ぁ〜！！！！』



くる、と回転して
拓也の胸元へと飛び込む。


大きい大きい胸元に今までの思いを全部込めて抱きつく。






暫くそうしていたが、
床にぺたんと座り込んだ。



どうやら、私のスタミナが切れたらしい。









誰もいなくなった会場のステージの上に
二人座り込む。




拓也が後ろから抱きついてる状態で話を始める。






「ライブ終わっちゃったよ。」

『うん。』







「俺、今日最高でさぁ。」



『うん。』





「Aにも見せたくて見せたくて。」




『…うん』









「俺、かっこいい？」

『っ…うん！』







そして再び抱きついた。


お互いを確認するように、
そっと唇を合わせた。











__余韻の後は大事な人へのプレゼント。

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