餞 ページ46
決まってからは早かった。
婚約の話は何事も無くそのままに、式の日取りや準備がトントン拍子に決まっていく。
同時に私が騎士団員として団に所属する最後の日は刻一刻と迫っていた。
「あと少し、か…。」
生活の中心だった部屋はおおかた片付いてどこか物悲しい。
元々あまり物を持つ方でも執着する方でも無いが、 “いつもの場所” にそれらが全て無いとなれば刹那的な寂しさも感じるものだ。
環境の変化というものはいつも何故だか少し切なくて憂鬱な気分を起こさせる。
長年使っていたこの部屋で眠るのもあと数回。
(なんだろう、これがマリッジブルーとかいうやつ？)
そんな繊細さが自分にあったのだろうかと思うが、新しい環境にしてもこれほど大きな変化をもたらすものはこの後の人生でも早々無いだろうから無理もないのかもしれない。
ーーコンコンッ
「A、居るか？」
そんな軽快なノック音と共にこちらを伺う声が聞こえて返事を返す。
聞き慣れた声の主は、私の退団を知り最近ではどうもぎくしゃくしてしまってやや避けられていたレオ。
夜更けも近いこの時間にどうしたのだろうかと扉を開ければ、俯き加減で目線を下に落としたレオがそこに立ち尽くしていた。
「少し、時間を貰ってもいいだろうか。」
「お茶淹れるね。座ってて？」
椅子を促して茶の用意をする。
それを持って行く頃には何かを決意したように今度はしっかりと私の顔を見据えて口を開いた。
「A、すまなかった…！！俺の心が未熟ゆえ中々受け入れられずに避けるような行動をしてしまっていた！」
「ううん、突然だったもんね。」
「兄上にチョップをされて目が覚めた。Aは、これから幸せになるんだな。それを祝福できんような心の狭い男では兄上のような立派な男にはなれん。…これは、少し早いが俺と兄上からの個人的な祝いの品だ。」
「開けてもいい？」
了承を得て、包装された立派な箱を丁寧に開ける。
中から出てきたのは赤を基調としたチェック柄のブランケット。
触らずとも質の良さが伝わってくるようだ。
その隅には控え目にこの団の紋章が刻まれている。
「騎士団のローブはもう羽織ることは無いかもしれんが、Aは正しくこの団の一員だ。」
そんな、思いの込められた贈り物。
私がこのローブを脱ぐ事に名残惜しさや未練があるのを見抜かれたようなそれは、まさしく『送り出す
それを胸に抱きしめる。
退団まで、あと数日。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 237人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夏冬 - ほんっっっっっとに面白かったです！！そして幸せな気分になれました！！！こんなにいい小説は久しぶりです！！！本当にこの作品を作ってくださってありがとうございました！！！！感謝しかないです！！！ (6月16日 21時) (
レス) @page50 id: 770d92d812 (このIDを非表示/違反報告)
雑草のかきあげ（仮垢）(プロフ) - あ''ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ好きです！！！！！きゅんきゅんが止まりません！！！！！作者様は私をキュン死させようとしているのでしょうか！？！？！？ (2022年9月6日 7時) (レス) @page50 id: dc942b8391 (このIDを非表示/違反報告)
とも - 読み応えがあり泣き笑い、本当に面白かったです！！！ (2021年5月9日 6時) (レス) id: 17c26d4027 (このIDを非表示/違反報告)
さつき(プロフ) - 一気に読ませていただきました。表現が細かいのにしつこさが無く、素人特有のわざとらしさも感じられなくてプロなんじゃないかと感じるほどの内容と読みやすさでした。続編、もしくは新作楽しみにしております。素晴らしい作品をありがとうございました！ (2020年7月8日 15時) (レス) id: b410464f01 (このIDを非表示/違反報告)
さらちゃん - 素晴らしい作品でした！1日で一気読みさせて貰いましたが最初から最後までキュンキュンさせていただきました(((o(*ﾟ▽ﾟ*)o))) (2020年6月13日 13時) (レス) id: 498426d70a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：緋毬 | 作成日時：2019年5月12日 23時
