求婚と ページ40
『本気で手放すというなら私が貰う。』
あの言葉が頭から離れない。
駆け引きでも何でもない、本気。
その熱が自身の抱える想いにまでも引火する。
(もう会うまいと思っていたはずなんだがな)
突き放したのは自分だというのにAの危機と聞けば体は動き、再会すれば手放しがたく、今も胸を占める鮮やかな感情のせいで気付けば彼女を連れ出していた。
彼女に告げた通り、婚約破棄の話に関して撤回は容易だ。
だが、その為にはAとゆっくり向き合って話す必要がある。
(体力や気力の回復ならば私の部屋でも問題なかろう)
好きだ、と。
嫌ってくれるな、と。
想っているのだ、と。
そんな事を聞いてしまってはどうにも手放せそうにない。
再びこの腕の中に暖かなぬくもりがある事を心の底から愛おしく思う。
王族らしさからはかけ離れた執着心は目も当てられないが、こればかりは仕方ない。
(Aの事となると初めから、ままならんことばかりだ…)
今日に至るまで様々な事があったがようやく想いが通いあったとはっきり発覚した今、もはや手放すという選択肢は無い。
「あの…ノゼルさん?一体どこへ…。」
「すぐに着く、静かにしていろ。」
「はい…。」
その言葉通り、眼下に見えるは己の居城。
窓の1つに滑らせるようにして鳥を横付けして部屋へと降り立つ。
生まれてこの方、こんな帰宅の仕方は初めてだが医療棟から無断で連れ出したのもあり人目は避けたかったのだ。
(とはいえ、すぐに気付かれるだろうが)
それでも落ち着いてAと向き合う時間が欲しかった。
抱えていた彼女をベッドへと降ろして側の椅子を手繰り寄せて掛ける。
Aもすぐ体を起こして向き合う形になった。
「先程の…。」
言いかけて、止まる。
何を言われるか察したであろうAの顔に朱が咲いた。
改めて実感する。
先程の言葉に偽りは無いのだと。
「…Aを守れるならば、この想いを断つ事も容易いと考えていた。」
「…は、い…。」
「そうする筈だった、先程の言葉を聞くまでは。」
「え?」
合わさる視線、潤んだ彼女の瞳にはほんの僅かな希望の光。
今から彼女に告げる言葉はきっと、彼女にとっては希望などでは無い。
だが覚悟は決めた。
決断するのは、Aに委ねよう。
「私の婚約者…ゆくゆくは伴侶として、騎士団を辞し側に居て欲しい。」
それはきっと、残酷な言葉。
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夏冬 - ほんっっっっっとに面白かったです!!そして幸せな気分になれました!!!こんなにいい小説は久しぶりです!!!本当にこの作品を作ってくださってありがとうございました!!!!感謝しかないです!!! (6月16日 21時) (レス) @page50 id: 770d92d812 (このIDを非表示/違反報告)
雑草のかきあげ(仮垢)(プロフ) - あ''ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ好きです!!!!!きゅんきゅんが止まりません!!!!!作者様は私をキュン死させようとしているのでしょうか!?!?!? (2022年9月6日 7時) (レス) @page50 id: dc942b8391 (このIDを非表示/違反報告)
とも - 読み応えがあり泣き笑い、本当に面白かったです!!! (2021年5月9日 6時) (レス) id: 17c26d4027 (このIDを非表示/違反報告)
さつき(プロフ) - 一気に読ませていただきました。表現が細かいのにしつこさが無く、素人特有のわざとらしさも感じられなくてプロなんじゃないかと感じるほどの内容と読みやすさでした。続編、もしくは新作楽しみにしております。素晴らしい作品をありがとうございました! (2020年7月8日 15時) (レス) id: b410464f01 (このIDを非表示/違反報告)
さらちゃん - 素晴らしい作品でした!1日で一気読みさせて貰いましたが最初から最後までキュンキュンさせていただきました(((o(*゚▽゚*)o))) (2020年6月13日 13時) (レス) id: 498426d70a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緋毬 | 作成日時:2019年5月12日 23時