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「…何だ。」
声がすぐ聞こえた気がした。
が、そんな訳ないと打ち消す。
(遂に幻聴まで…)
目を閉じて膝を抱えた状態のままで上掛けを手繰り寄せて頭からすっぽりとかぶる。
そのまま寝入ってしまおうとすれば何故か体から上掛けの重さが消え去って、代わりにヒヤリとした空気に体が晒される。
「!?」
突然の事に驚いて硬直しつつも目を開ければ、そんな私を覗き込むようにしている藤色の瞳とかち合った。
「…何故隠れる。」
ムッとしたように少し
さっきまで思考を埋めていた元凶のその人。
あまりに突然の事で完全に頭がフリーズする。
(なんでここに…え?というか近い、物凄く近い)
現状に頭も体も硬直しきっていれば、その眉間のシワはより濃く刻まれる。
そして今度は伸ばされた手がぴとりと頬に触れた。
「A。」
「はい!?」
反射的に返事をしつつ身を起こして座る。
その瞳には以前の冷たさは無く、名を呼ぶ声もどこか穏やかで恐る恐る改めて目線を合わす。
反対に、視線が合うとノゼルさんの瞳が少し揺らいだ。
婚約破棄をつきつけられ、こちらからも一方的に別れを告げたきりのノゼルさん。
一体なぜ、今更何を言われるのかと緊張してしまう。
「…私の側に居ようと居なかろうと、おまえは怪我を負うのだな。」
そう言いながら肌に手を這わせる。
まるで、何かを確かめるかのように。
その手がくすぐったくて思わず身を
「け、怪我なんて日常茶飯事ですよ!ある程度なら自力で治せますし、平気です!」
その弱さを見せてはいけない、それがあるからノゼルさんは私を見限り突き放した。
想いを汲んで、せめて強くなって安心させたいと思っていたのにも関わらずまた今回も拉致されてしまったのだ。
あの場にはソリドも居た、話は詳細まで伝わっているとみていいだろう。
「ノゼルさんに心配掛けないように、もっと強くなります。もうお側に居る資格はありませんが、強くなって共に国を護る存在になれればと…。」
私達はクローバー王国の魔法騎士。
その目的と志は常に同じ。
隣で共に歩めなくても、別の形で同じ方向を見る事が出来るのは嬉しい事だ。
「…ここに来たのは、確認する事があったからだ。」
「何でしょう…?」
首を傾げれば、ノゼルさんはまたその瞳をほんの少し彷徨わせた。
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夏冬 - ほんっっっっっとに面白かったです!!そして幸せな気分になれました!!!こんなにいい小説は久しぶりです!!!本当にこの作品を作ってくださってありがとうございました!!!!感謝しかないです!!! (6月16日 21時) (レス) @page50 id: 770d92d812 (このIDを非表示/違反報告)
雑草のかきあげ(仮垢)(プロフ) - あ''ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ好きです!!!!!きゅんきゅんが止まりません!!!!!作者様は私をキュン死させようとしているのでしょうか!?!?!? (2022年9月6日 7時) (レス) @page50 id: dc942b8391 (このIDを非表示/違反報告)
とも - 読み応えがあり泣き笑い、本当に面白かったです!!! (2021年5月9日 6時) (レス) id: 17c26d4027 (このIDを非表示/違反報告)
さつき(プロフ) - 一気に読ませていただきました。表現が細かいのにしつこさが無く、素人特有のわざとらしさも感じられなくてプロなんじゃないかと感じるほどの内容と読みやすさでした。続編、もしくは新作楽しみにしております。素晴らしい作品をありがとうございました! (2020年7月8日 15時) (レス) id: b410464f01 (このIDを非表示/違反報告)
さらちゃん - 素晴らしい作品でした!1日で一気読みさせて貰いましたが最初から最後までキュンキュンさせていただきました(((o(*゚▽゚*)o))) (2020年6月13日 13時) (レス) id: 498426d70a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緋毬 | 作成日時:2019年5月12日 23時