・ ページ31
「……ん…。」
どこかで雫が落ちる音がする。
その音に誘われるように、意識が浮上した。
未だに少し痺れの残る体を動かして辺りを見回す。
(暗い…ここは、どこ？)
肌寒さを感じる気温、どこかから響いてくる水の音。
暗がりに目が慣れてくれば辺りがゴツゴツした岩で形成された空間だと分かる。
(…洞窟？体は、動かないか)
石柱のようなものに立ったままくくり付けられているようで、動こうにも縄が体に食い込むだけだ。
魔導書もぐるぐる巻きにされて足元に置かれている。
(けど、ただの縄なら凍らせて砕けるかも)
魔導書が無くてもそれぐらいは出来るはず。
そう思い手に近い場所の縄だけを凍らせようと集中する。
周りにあいつが居ない内に逃げなければと焦っていて頭から抜けていた。
用意周到で狡猾な奴が、何も仕掛けずにこの場を離れる訳がないという事を。
「い"っ…‼ 」
魔法を発動しようとした瞬間、縄が電気を帯びたように光を発して痛みと痺れを引き起こす。
寸での所で悲鳴こそ上げなかったものの、その衝撃と光のせいで目がチカチカする。
(これも魔導具か…！)
瞬時にそれを察して危機感を抱く。
この場には居なかったが、私が目を覚ましてから行動する事まで織り込み済みならば…。
「起きましたか。」
「目覚めは最悪だけどね。」
「逃げようとするからですよ、あなたに無用な危害を加えるつもりなど無いというのに。」
「よく言う…。」
カツカツと足音が響き渡る。
音が反響して分かりにくいがその気配は私の後ろ、石柱に回した手の方に居るようだ。
「本当ですよ。私は “あなたを誘拐した” という事実が欲しかったんです。私の手の内にあると知れば交渉材料になるでしょう？」
「どこまでも卑怯だね。」
「ええ、ですからあなたの事はどうでもいいのです。その生死すらね。」
後ろから縄を引かれる。
位置は首。
ギリギリと首元が締まって息が詰まる。
「無用に傷付けはしません。しかし悩んでいるんですよ…生かすか、殺すかをね。」
明確な殺意が突き刺さる。
締まった首と動かぬ体ではそこから逃れる術はない。
「自由を奪って連れ歩くのも鬱陶しいでしょうし、あなたも大人しく従ってはくれないでしょう？ならばここで荷を降ろす手もありますよね。」
すぐ耳元で冷たい声がして、さらに強い力で首が締まる。
絞め落とされるかと思う寸前に突然開放され、肺の底から咳き込む。
ようやく正面に来たそいつを睨みつけた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 237人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夏冬 - ほんっっっっっとに面白かったです！！そして幸せな気分になれました！！！こんなにいい小説は久しぶりです！！！本当にこの作品を作ってくださってありがとうございました！！！！感謝しかないです！！！ (6月16日 21時) (
レス) @page50 id: 770d92d812 (このIDを非表示/違反報告)
雑草のかきあげ（仮垢）(プロフ) - あ''ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ好きです！！！！！きゅんきゅんが止まりません！！！！！作者様は私をキュン死させようとしているのでしょうか！？！？！？ (2022年9月6日 7時) (レス) @page50 id: dc942b8391 (このIDを非表示/違反報告)
とも - 読み応えがあり泣き笑い、本当に面白かったです！！！ (2021年5月9日 6時) (レス) id: 17c26d4027 (このIDを非表示/違反報告)
さつき(プロフ) - 一気に読ませていただきました。表現が細かいのにしつこさが無く、素人特有のわざとらしさも感じられなくてプロなんじゃないかと感じるほどの内容と読みやすさでした。続編、もしくは新作楽しみにしております。素晴らしい作品をありがとうございました！ (2020年7月8日 15時) (レス) id: b410464f01 (このIDを非表示/違反報告)
さらちゃん - 素晴らしい作品でした！1日で一気読みさせて貰いましたが最初から最後までキュンキュンさせていただきました(((o(*ﾟ▽ﾟ*)o))) (2020年6月13日 13時) (レス) id: 498426d70a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：緋毬 | 作成日時：2019年5月12日 23時
