検索窓
今日:10 hit、昨日:11 hit、合計:166,730 hit

愛別離苦 ページ20

「待ってたわ。」


招かれるままに足を踏み入れた。
密かに深呼吸をふたつ。


「私の部屋よ、突然お兄様に遭遇する事は無いから少し気を緩めていいわ。」

「はい…。」


広い部屋の机には、美味しそうなお菓子の数々とお茶が既に用意されていた。
促されるまま椅子に腰掛けてネブラさんと対面しながらそれらを頂く。


(覚悟して来た、はずだけど…)


美味しそうなお茶もお菓子も、あまり味が分からないなんて初めての経験。
まるで甘い砂を噛んでいるようだ。


「あら…口に合わなかったかしら?」

「あ、いえ。」


誤魔化すように笑ってみせても、きっとネブラさんには悟られてしまうだろう。
かといって今の心情はとても言葉で言い表わせられそうもない。


「お兄様なら多分もうそろそろかしら。」


気付いたのか気付いてないのか、そう言うネブラさんの言葉にドキリと心臓が脈打った。
ノゼルさんは私がここに居る事を知らない。
完全に不意打ちでの突撃だ。


「応援、してるわ。」


少しだけ臆病風に吹かれた私を見抜いたかのようにネブラさんが私に檄を飛ばす。
肩に手を置いて、しっかり目線を合わせて。
そのまま私の手を引き立たせ、部屋の外へと出された。


「ネ、ネブラさん!?」


あまりに突然な行動に、閉まった扉を振り返る。
先に気付くべきだった。
ネブラさんが何故私を廊下へと追い出したのか。


「A…?」


驚いたような声色の、酷く懐かしく感じるそれが私の名を呼んだ。


(あぁ、やっぱり…駄目だ…)


声を聞いた途端に鼓動が高鳴る。
心があの人へと走り出す。
心臓をギュッと掴まれたような、身体を撃ち抜くような衝撃に思わず足がふらつきかける。


「ノゼル、さん…。」

「何故ここに?」


その目に以前のような冷たい光は無く、ただ不思議そうにこちらを見返していた。
グッと溢れるものを堪えて向き直る。


「お会いしたくて、ネブラさんにお願いしました。」

「……。」


前の勢いであればつまみ出されてもおかしくは無いと思っていたが、その気配は無さそうだ。
静かにこちらを伺っているのは、話を聞いてくれるという事だろうか。


「ノゼルさん…私が、弱いせいで沢山ご迷惑をお掛けしました。今まで色々とありがとうござい、ました。」


この家で教えて貰った通り、背筋を正して一礼をする。

さよならの声は震えなかっただろうか。
飲み込んだ告白はバレなかっただろうか。

足早に去る私を、止める者は無い。

・→←・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (236 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
237人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

夏冬 - ほんっっっっっとに面白かったです!!そして幸せな気分になれました!!!こんなにいい小説は久しぶりです!!!本当にこの作品を作ってくださってありがとうございました!!!!感謝しかないです!!! (6月16日 21時) (レス) @page50 id: 770d92d812 (このIDを非表示/違反報告)
雑草のかきあげ(仮垢)(プロフ) - あ''ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ好きです!!!!!きゅんきゅんが止まりません!!!!!作者様は私をキュン死させようとしているのでしょうか!?!?!? (2022年9月6日 7時) (レス) @page50 id: dc942b8391 (このIDを非表示/違反報告)
とも - 読み応えがあり泣き笑い、本当に面白かったです!!! (2021年5月9日 6時) (レス) id: 17c26d4027 (このIDを非表示/違反報告)
さつき(プロフ) - 一気に読ませていただきました。表現が細かいのにしつこさが無く、素人特有のわざとらしさも感じられなくてプロなんじゃないかと感じるほどの内容と読みやすさでした。続編、もしくは新作楽しみにしております。素晴らしい作品をありがとうございました! (2020年7月8日 15時) (レス) id: b410464f01 (このIDを非表示/違反報告)
さらちゃん - 素晴らしい作品でした!1日で一気読みさせて貰いましたが最初から最後までキュンキュンさせていただきました(((o(*゚▽゚*)o))) (2020年6月13日 13時) (レス) id: 498426d70a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:緋毬 | 作成日時:2019年5月12日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。