不本意結婚物語5【ブラクロ】

戀 ページ12

大切な物を手放す時、それはどんな気持ちなのだろうか。
私にはそれがわからない。


「理解は出来ても納得は出来ないわ…。」


任務から戻ってもう一度兄を問い詰めた。
出る時よりは幾分落ち着いたであろうその様子に問いを重ねれば、ようやく重い口を開いて思いを告げる。

あの忌々しい事件と真相、そこから導いた兄の答えは彼女を狙われる立場から遠ざける事。
それ故のあの発言だったらしく、それももう彼女へ伝えたと言うのだ。


(お兄様はそれで良くても私が嫌だもの。いいわ、私も好きに動く事にしましょう)


兄の気持ちは充分承知しているが、思い違いで無ければ彼女も兄を想っていた筈だ。
それも確認せずにこの話を終えたくはない。


(あんなに荒れるほど想っているなら、貫けばいいのに…)


思わず溜め息が出てしまう。
優秀な兄は貴族連中や団員の憧れだが、どうも恋愛方向は不得手らしい。
見守っている分にはとても楽しいのだがこうなってしまうとは思っていなかった。


(何よりあの子がもし他の男の手に渡ることがあれば非常に面白くないわ)


出来る事ならば兄にも彼女にも幸せになって貰いたいし、一緒になってくれるのが最善だ。
想い合っているならば離れるなんて選択肢を選ぶのはどちらも悲しいだけではないか。


(それに…お兄様には悪いけれど、あの子以外が婚約者として来たときに私、絶対に追い出すまで弄んでしまう自信があるもの)


それは自分だけでなく難しい年頃の弟も同じだろう。
あれだけの適任は早々居やしないのだ。

彼女へ宛てて手紙を書く。
兄の婚約破棄を受けて、今彼女は何を思っているのだろうか。
知る由も無いが、早急に会って話を聞かねばならない。


(もう…同じ団ならばこんな手間は無いのに)


彼女の自団への愛着は分かるが、異なる場所に居る事をこの時ばかりは恨めしく思う。
書き終えた手紙を彼女の元へと送り、苛立ちのままにローブを脱ぎ去る。


(忙しい時期だから、いつ会えるかは分からないけど…なるべく早い方がいいわね)


返事を待つこと…数日。
遅くても翌日には返ってくると思っていたのに届かぬ手紙に歯噛みする。


(何か、あったのかしら)


婚約破棄の話が出たとはいえ、手紙を無視するような不義理をする性格では無い筈だ。
気をもみながら待つのはどうにも性に合わない。


(…仕方ないわね……)


戻ったばかりの自室を後にして向かうは紅蓮の獅子王団。
きっと元気で居ることを信じて。

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