episode１０２ ページ9
今日もいつものように書類を書き、いつものように見廻りに行き、いつものように皆と言葉を交わす。
そのいつもと変わらない日常は今日が最後。光ある日常から影へと元へ戻る日がきたのだ。
今夜は満月。真っ赤な月が夜空を彩り始めている。
不気味に夜空を彩る満月を一人、庭で見上げていた。
近「お、Aちゃん。何やってんだ？」
あ「不気味な満月だと思いまして。近藤さんこそ何をしに？」
近「今日のガス抜きにな」
あの言葉をまた来る日だと勘づくのはさすがだ。ま、残念ながら意味が違うけど。
近「どうした？深刻そうな顔して」
あ「いえ、別に……」
総「おや、珍しいですねィ。お月見ですかィ？」
近「団子は無いけどな」
総「それは残念。まぁ、こんな不気味な月でお月見なんて……おや、どうしたんですかィ？んな顔して」
あ「そんなに？」
総「少なくともいつもとは違うと思いやすが」
そこまで顔に出るようになっていたのか。随分と落ちぶれてしまったものだ。
土「お前ら何やってんだよ。んなところで」
近「月見だ。トシも一緒にどうだ？」
土「こんな不気味な月でお月見なんざしたくねぇよ」
近「まぁそう言うなよ。Aちゃんに便乗してお月見しようぜ」
土「便乗って……ん？お前、何か……」
総「それはもう言ったんで黙って下せェ」
土「あぁ？どういうことだよ」
近「俺も総悟も同じ事聞いたんだ。なぁ？Aちゃん」
あ「えぇ」
土「そうかよ……今日は口数が少ねぇな」
総「なんか悩みでもあるんですかィ？」
無いよ。笑ってそう言えたらどれだけ楽か。
塀の外から複数の気配をを感じる。
……最後の挨拶くらいしとくか。
あ「悩み事、ねぇ……」
土「おい……何を隠してやがる」
あ「んー？今は何も隠してないが、これだけは言っとくよ」
敬語を捨てて、張り付けた微笑みを消して……苦しみに泣く心を殺す。
──私は影。一族最後の長である──
あ「今までありがとう。楽しかったよ、ここで過ごした日々は」
近「まるで最後みたいな言い方だな」
土「何か変なものでも食ったのか？」
総「あんたには言われたくないと思いやすけどね」
土「お前はいちいちうるせぇんだよ」
新選組。今のうちに楽しんでおくと良い。その余生を。
あ「私は至って正常だ。元に戻るだけなんだ」
土「だから何がッ！……」
土方はそこで口を閉じた。
門を開けて入ってきた黒川。不気味な笑みを浮かべている。
今、歯車は完全に崩れさった。
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作者名：暇人の甘党 | 作成日時：2016年5月14日 0時
