29 ページ29
・
とある日、私は煉獄家の前にいた。
杏寿郎の死後、訪れたのはこれが初めてだ。
あと一歩がなかなか踏み出せず、
門の前を行ったり来たりすることしかできない。
“もう少し、待っていてほしいの”
先日彼に言ったその言葉。
もう、自分の中で言い逃れは出来まい。
婚約者がいながら、他者に心が揺れ動くなど本来あってはならない。
どんな罵声も、覚悟していた。
深呼吸を二回、私は門をくぐった。
・
「義姉上…っ!来てくれたのですね…!」
千寿郎君が人懐っこい笑顔を浮かべ、
パタパタと走ってきて出迎えてくれた。
杏寿郎が槇寿郎様に私と結婚をしたいという話をしたあの日から、千寿郎君は私のことをAさんでなく義姉上と呼ぶようになった。
嬉しかった。本当の弟が出来たようで。
だけど今は、胸を針でチクチクと刺されるような痛みが走る。
「…来てくれたのだな。」
千寿郎君の頭を撫でていると、音もなく現れた槇寿郎様。
『あの…槇寿郎様。』
「わかっている。…こちらへ来なさい。」
促され、その背について行った。
・
「A、何も言わなくていい。
大体の予想はついている。
……いるのだろう?杏寿郎の死後、君を絶望の底から救ってくれた者が。」
・
『…申し訳ありません…、私、私は…っ、』
「謝ることは無い。
杏寿郎もそれを望んでいるはずだ。」
顔を上げると、とても穏やかな顔と目が合った。
「君と杏寿郎が一緒になるのをとても楽しみにしていた。孫はどちらに似るのだろうと想像したりもした。
……だが、人生は一度きりだ。
杏寿郎がいない今、君をこの煉獄家に縛り付けるのはあまりにも酷で、身勝手だ。
君には幸せになってもらいたい。
それが、俺たちの総意だ。」
さぁこれを、と杏寿郎からの手紙を渡される。
泣くのは我慢した。
彼らの前で涙を流すのは、あまりにも卑怯だからだ。
・
95人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
唯梨(プロフ) - 豆腐さん» はじめまして!そんなお言葉…嬉しいです😭😭書いてよかった…!ありがとうございます! (7月23日 22時) (レス) @page38 id: 52e22c892c (このIDを非表示/違反報告)
豆腐 - 初めて夢小説を読んで涙が出ました。こんなに泣くとは思わず自分でも驚いております。とても素敵なお話お話でした。ありがとうございました。 (7月15日 16時) (レス) id: 5618040869 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - わぁぁ…!読んでると自然と涙がでてくるあったかいお話……!心がほわぁっとするの…!(語彙力)そしてまってみいちゃん。煉獄さんと実弥さん書いてくれるの!ってことは少なくともあと2作みいちゃんの鬼滅が読めるってこと……?最高っ!!ありがとう!!大好きです。 (2021年7月22日 23時) (レス) id: 940f9d3174 (このIDを非表示/違反報告)
りり(プロフ) - し、師範んんんん…!!!!やっぱり私何度読んでも、涙無くしてこのお話読めない……出てくる人皆温かい(ToT)本当に大好きなお話。リクエスト応えてくれて感謝しかない。そして、紹介までして貰っちゃって…びっくり!!ありがとう!! (2021年7月22日 22時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
衣世(プロフ) - ちょい悪な杏寿郎見たいです!唯梨さんの書く、実弥ハピエンも最強です!前回、実弥バッドエンドと言いながらも、コメントした時点で心折れました(ToT)チーン笑。 (2021年7月22日 21時) (レス) id: 1ea4fe96cf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:唯梨 | 作成日時:2021年7月22日 19時