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…
「明日から向こうでしょ？いいの？こんな時間まで。」
もう22時を過ぎている。
年度末だから遅くまで残ってる人もちらほらいるフロア。
営業は岩本くんと私だけになっていて。私は明日でもいい仕事だけど、最後の日に彼を一人にしたくなくてなんとなく残っていた。
責任感の強い彼は、ギリギリまで美南ちゃんに教えられることはないか、自分にできることはないかと奔走していた。
でも。明日からは異動先で新しい生活が始まる。
「もう終わります。…あとは、お願いします。」
「うん。私も引き継ぐところあるし、なんとかするから。…ホントに岩本くんは手を抜かないよね。」
「いや、仕事なんで。」
「そうだけど、今から向こう行くんでしょ？大丈夫なの？」
「週末に部屋はなんとか片付けたんですよ。まだ、まわりに何があるのかも分かんないんすけど。」
「大丈夫じゃないじゃん。」
思わず笑ってしまうと、岩本くんも眉を下げて笑う。
その街、私知ってるの。
旦那の実家がある街だから。
お店もいくつか知ってるんだけど、ごめん最近行ってないし旦那の名前すら口に出したくないんだ。
デスクの荷物をまとめて岩本くんの車に積み込んで。見上げる夜空は重い雲が広がっていた。
「寒いね、今日。」
「ですね。明日から4月だっていうのに。」
「風邪引かないように、気を付けてね。」
「はい、あの…。」
口ごもった彼は、ひとつ咳払いをして。遠慮がちにこちらを見る。
「…、我慢できなくなったら電話してもいいですか？」
「え？うん。そんなの遠慮しないでしてきてよ。立ち上げなんだからストレスたまるでしょ。」
ふと、入社した頃の岩本くんを思い出す。怖そうな子が入ってきたなって思ったら、熱くて優しい子で。気が付いたら一番近い後輩になってた。
「今までお世話になりました。またAさんと一緒に仕事、したいんで。必ず結果出して帰ってきます。」
岩本くんの目にはうっすらと涙が浮かんでる。
別れはいくつになっても慣れないし寂しいものだね。
寂しいよなんていったら泣いちゃいそうだから。ぐっとその言葉をこらえて。
「頑張ってね。」
「はい。行ってきます。」
運転席に乗り込んだ彼はにこっと笑って。車はゆっくりと動き始めると、敷地を出て左に曲がって行った。
明日からは岩本くんはここには来ない。あの街で、彼の一日が始まっていくんだ
その日の夜。
この春最後の、雪が降った。
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みち(プロフ) - うみ♪さん» うみ♪さんコメントありがとうございます。以前も読んでくださってたんですね。不思議なめぐり合わせ、とても嬉しいです!また読んでやってくださいね。 (2021年1月31日 15時) (
レス) id: 375937212d (このIDを非表示/違反報告)
うみ♪ - こんばんは！初コメです！ケンティーメインのお話の時から好きで、ずっとまた作品見たいなあと思っていてひーくんメインのお話で覗いて見たら作者にみちさんのお名前が！！こんなことってある！？ってなりました！過去作も読ませてもらってます！ (2021年1月31日 0時) (レス) id: ebee9b3126 (このIDを非表示/違反報告)
みち(プロフ) - まりんさん» コメントありがとうございます。このふたりには幸せになってほしいので。その後を書くことにしました。これからもよろしくお願いします。 (2020年8月27日 20時) (レス) id: 375937212d (このIDを非表示/違反報告)
まりん - 続編ありがとうございます。幸せな2人の今後の展開がとても楽しみです。更新ありがとうございます。 (2020年8月24日 22時) (レス) id: f071218485 (このIDを非表示/違反報告)
みち(プロフ) - おこりさん» コメントありがとうございます。更新なかなかできない時もあったのでお待たせしていたかもしれませんが、読んでいただいて嬉しいです！また番外編書くつもりなので、また読んでやってください！ (2020年8月17日 12時) (レス) id: 375937212d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みち
| 作成日時：2020年2月24日 21時
