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…
『Aさん、俺待ってた。ずっと。』
聞きたくて仕方がなかった声が、耳に、響く。
「…ごめんね、いっぱい待たせて。」
『俺に会いたいってホントですか?』
「ホントだよ。こんなの嘘つかない。」
小さく、ため息が聞こえる。
『…あの、めちゃくちゃ嬉しいけどちょっとむかついてます。』
「なんで?」
『すぐに会いに行けないの分かっててそれずるくないですか。金曜日、仕事終わったらそっち行きます。』
私の予定なんて聞く気はない。仕事を定時で切り上げて、彼は約束通り金曜の夜にやって来た。
駅で待っていると、改札を出てくるスーツ姿の岩本くんが見えた。
「この駅来るの結構久しぶり。」
「あれ?この前は?」
「仕事の時はいつも車なんで。」
「そっか。あ、お疲れさま。」
「お疲れさまです。」
なんて。何気なく話しているけど、ずっとドキドキが止まらなくて。私、この人のこと好きなんだと実感する。
「なに食べに行く?お腹すいたでしょ。」
「あー、すいたけど。でもそれより俺は。」
するりと伸びた手が、私の手を絡め取る。
「早く二人きりになりたいです。」
「…っ、。」
「じゃないと、ここで抱き締めちゃいそうなんで。」
「待って、ここ会社の最寄り。」
「分かってます。」
「じゃあ…家でなんか作ろっか?」
って答えたら。さっきまでのクールな表情が一瞬にしてかわいい笑顔に変わって。
こんなに思ってくれる人を、ずっと待たせてたんだって思うと。ぎゅっと胸が痛くなった。
「ひとりだから、あんまり色々作る材料ないかも。」
「Aさんが作ってくれるんならなんでも嬉しいです。」
部屋について冷蔵庫の中身を確認しようとした私を彼の腕が阻んで。
折れるかと思うくらいの強さで抱き締められた。
「ちょっと、待って…。」
「やっと会えた。」
そんな声で言われたら。されるがままになるしかない。
「こっち見て。」
「うん、」
「待ってた分、もっと好きになってるから。」
たちまち私の目には涙が浮かんでくる。
「…、照。」
「いきなり呼ぶなって。もう…。」
少し困り顔になった彼の顔が再び近づいて。
私達は初めてのキスをした。
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みち(プロフ) - うみ♪さん» うみ♪さんコメントありがとうございます。以前も読んでくださってたんですね。不思議なめぐり合わせ、とても嬉しいです!また読んでやってくださいね。 (2021年1月31日 15時) (レス) id: 375937212d (このIDを非表示/違反報告)
うみ♪ - こんばんは!初コメです!ケンティーメインのお話の時から好きで、ずっとまた作品見たいなあと思っていてひーくんメインのお話で覗いて見たら作者にみちさんのお名前が!!こんなことってある!?ってなりました!過去作も読ませてもらってます! (2021年1月31日 0時) (レス) id: ebee9b3126 (このIDを非表示/違反報告)
みち(プロフ) - まりんさん» コメントありがとうございます。このふたりには幸せになってほしいので。その後を書くことにしました。これからもよろしくお願いします。 (2020年8月27日 20時) (レス) id: 375937212d (このIDを非表示/違反報告)
まりん - 続編ありがとうございます。幸せな2人の今後の展開がとても楽しみです。更新ありがとうございます。 (2020年8月24日 22時) (レス) id: f071218485 (このIDを非表示/違反報告)
みち(プロフ) - おこりさん» コメントありがとうございます。更新なかなかできない時もあったのでお待たせしていたかもしれませんが、読んでいただいて嬉しいです!また番外編書くつもりなので、また読んでやってください! (2020年8月17日 12時) (レス) id: 375937212d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みち | 作成日時:2020年2月24日 21時