【銀魂】光翼鳥の剣：re2

三十七話 ページ38

「絶対逃がすな！追え！！」

静かだった河原に、切羽詰まった男の声が響き渡る。

そちらに視線を向ければ、川の向こう岸を真選組隊士が走り過ぎるのが見えた。

あちらがこっちに気づくことは無いと思いつつも、Aは反射的に高杉の背中に隠れる。

源外を追っているに相違ないが、きっと今更追いつけないだろう。

隊士に悪いとは思いつつも、Aはそっと安堵の溜息をついた。

とはいえ、間もなくこちら岸にも隊士が来る可能性は高い。

Aは高杉から離れると、顔を見合わせて頷き合った。

「七日後のこの時間、今度は港に来る」

「分かった。誰に会いたい？」

「…………………お前だけでいい」

「今ちょっとよぎったでしょ」

「よぎってない」

間髪入れずに言い返され、Aは呆れたように笑う。

「まあいっか。そういうことにしておいてあげる」

ひとしきり笑った後、Aは改めて高杉の顔を見上げた。

彼の前髪に手を伸ばしてかき分け、失われた左目と目を合わせる。

「またね」

彼女の笑顔が高杉の左目に映ることは万が一にもない。

だが高杉はそれでも、その光が奥に焼き付いた呪縛から自分を解放してくれる気がしていた。

「…………またな」

顔に触れるAの右手を取り、手のひらに口づける。

一瞬にして固まったAにしたり顔を残して、彼もまた夜闇の中へと消えていった。

―――――遠くから、真選組隊士の声が近づいてくる。

「ぜんっ………ぜん反省してないじゃん……………」

右手を閉じることも降ろすことも出来ないまま、Aはその場で一人身悶えた。

最悪、変態、色情魔。

頭の中であらゆる悪口を連呼しながら、左手で自分の口元を抑える。

顔が熱くてどうにかなりそうだ。

しかし不快感のようなものはない。

嫌ではないなら好きなのか？

だが恥ずかしさばかりが勝って、彼の今の行動が嬉しいのかどうかなんて分かりもしない。

時間をかけて考えようと置いておいたはずの思考がまた始まる。

(全部晋助のせいなんだからね、バカ)

恨み言をひたすら頭で呟きながら、熱い頬に触れる。

だが、雨に濡れた体ははっきりと「寒い」と認識しているらしく、それを主張するように、Aに一つくしゃみをさせた。

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