十九話 ページ20
一応尋ねてはみたものの。
爪楊枝は変えないだろうとAは思っていた。
万が一代えの爪楊枝に毒が盛られたら意味がないし、将軍はそういうのにも慣れているだろうと思ったからだ。
しかし、将軍は意外にも動揺を見せた。
Aとたこ焼き(の爪楊枝)を交互に見やる将軍を、付き人はほっほっほと笑う。
「茂茂さんは堅物でねェ。浮いた話は一つもなくて」
「そ、そうなんですか……」
「……………………」
唇を引き結ぶ将軍は、どこか泣くのを堪えているかのようだった。
堅物というより、ただ単に縁に恵まれないだけなのかもしれない。
(俗っぽい)
Aはたこ焼きを求められた時に抱いたのと同じ感想を心に思い浮かべた。
頭を抱えて「分かった、大丈夫だ」などと自分に言い聞かせるように呟く将軍に、苦笑いをして近寄る。
「どうぞ。冷めないうちに」
たこ焼きを差し出して笑むと、将軍はおずおずと顔を上げた。
すると、Aの顔を近くで見るその双眸がゆっくりと見開かれる。
「そなたは―――……」
「?」
待ち望んだたこ焼きを受け取りもせず、将軍は彼女の顔を見つめた。
その表情はまるで何かに魅せられたかのようだ。
「―――美しいな」
「……………………………………はい?」
その時のAと付き人は完全に一体だった。
しかし、重なった二人の声と戸惑いを、将軍は気にも留めない。
「月明りによく映える。今日が満月でないのが惜しい」
「………………そう、ですか」
振り返って空を見上げれば、確かに今日は月が綺麗に浮かんでいた。
爪楊枝の一つに動揺する男から出た台詞とは思えない言葉だったが、恐らくそこに下心はなく、率直な感想を述べただけなのだろう。
褒められて悪い気などするはずも無かったが、月と並べられてAは複雑な気持ちになった。
「すまない、気分を害しただろうか」
「え…………」
「体が少し強張っている」
その瞬間、Aは体からすっと力が抜けるのを感じた。
彼は人をよく見ている。
自分でも気づかなかった細かな変化にも、気が付いてしまう程に。
(この人が“将軍”………)
Aは将軍から目を離せずにいた。
祭りの喧騒が遠ざかる。
月をわずかに隠す雲を払うかのように、風がそっとAの髪を撫でた。
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梓 - ほんとにほんとに面白いです!!!更新頑張ってください!待ってます!(返信不要です汗 私が勝手に想いを伝えたかっただけなので…) (2020年7月1日 21時) (レス) id: b54ff5a336 (このIDを非表示/違反報告)
Lea - ほわいとさん» わ、わ、はじめまして!めちゃくちゃ更新に間が空いてすみません!当時見ていてくださったんですね、ちょっと恥ずかしいですが嬉しいです!ありがとうございます!リメイク版はまた展開をちょこちょこ変えるつもりなので、その違いも楽しんでいただけたらと思います! (2020年6月30日 20時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
ほわいと - はじめまして、当時この小説にハマっており数年後の今リメイク版を出されるとは思わず感動していますメッチャクチャ嬉しいです!!これからも応援しております (2020年6月20日 17時) (レス) id: 02cfa52dfe (このIDを非表示/違反報告)
Lea - 一寸先はダークさん» ありがとうございます!その辺りめっちゃ頑張って書いたので嬉しいです!!ザキの事情は当時かなり衝撃を受けました笑これから数話を高杉に割くので、彼のことも見てやってください〜 (2020年6月8日 11時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
一寸先はダーク - Leaさん!とても面白いですね!!ザキが可愛かったです。元ヤンには見えないなぁw。銀さん達との再会とかも描写がとても綺麗で想像しやすかったです!更新無理せず頑張って下さい!応援してます! (2020年6月7日 13時) (レス) id: 771b180e53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Lea | 作成日時:2020年6月3日 12時